京都大学と三菱電機は、5W級の高い出力と1kHzという狭い固有スペクトル線幅を両立させた「フォトニック結晶レーザー(PCSEL)」を開発した。宇宙空間における衛星間通信や衛星搭載ライダーなどへの応用に期待する。
京都大学工学研究科の野田進教授と森田遼平特定研究員、井上卓也助教、吉田昌宏助教および、三菱電機の榎健太郎研究員らによるグループは2024年2月、5W級の高い出力と1kHzという狭い固有スペクトル線幅を両立させた「フォトニック結晶レーザー(PCSEL)」を開発したと発表した。宇宙空間における衛星間通信や衛星搭載ライダーなどへの応用に期待する。
半導体レーザーは、固有の周波数揺らぎ幅(スペクトル線幅)が狭いほど、レーザー光の「純度」が高くなり、可干渉性(コヒーレンス)が増えるため、光の波としての性質を効率的に利用できる。また、スペクトル純度の高いレーザー光を、原子やイオンに照射すれば絶対零度近くまで冷却することが可能になるという。
PCSELは、従来の半導体レーザーに比べると、高出力動作が可能で狭い固有スペクトル線幅を有している。研究グループは既に、直径250μmのPCSELを用い、70kHzという狭い固有スペクトル線幅を実現し、理論的にも実証してきた。また、KDDIおよびKDDI総合研究所と共同で、宇宙空間での衛星間通信など自由空間光通信への適用可能性も確認している。
そこで今回、PCSELの高い出力を維持しつつ、さらに狭い固有スペクトル線幅を実現するための研究に取り組んだ。実験に用いたPCSELの直径は、これまでの250μmから1mmに拡大した。PCSELは、従来の半導体レーザーに比べ大きな発振面積でも、単一の周波数で発振できる。ところがそのためには、面内の共振周波数分布を均一にする必要があるという。
発振領域内において、一様な電流密度分布で電流を連続注入すると、素子内部の発熱によって温度分布は中央部が高くなる。この時、温度によって半導体材料の屈折率が変化し、フォトニック結晶の共振周波数に面内分布が生じる。
これにより、発振周波数に対しては素子の中央部が光の禁制帯として働き、素子内部の光が中央から端部へと押しやられる。このため、面内損失が大きくなるとみられている。面内損失の増大によって素子内部の光子数が減少すると、スペクトル線幅は増大する。高速自己変化現象によって、短パルス発振を生じさせる可能性もあるという。
そこで今回は、中央部分の電流分布を低減する工夫を行った。これにより、素子内部の温度分布が平たんになり、共振周波数分布も平たんとなって、面内損失を大幅に低減することが可能となった。
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