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AppleがマイクロLED搭載「Apple Watch」の開発を中止か 戦略見直しを迫られたams OSRAM8億ユーロを投資した工場は稼働目前だった

ams OSRAMは、マイクロLED戦略の中核となるプロジェクトが「予期せぬキャンセル」となったことから、同戦略の見直しを行うと発表した。同社は顧客名を明かしていないが、市場調査会社などはAppleがマイクロLED搭載「Apple Watch」開発を中止したことによるものと見ている。

» 2024年03月06日 09時00分 公開
[永山準EE Times Japan]

 ams OSRAMは2024年2月28日(ドイツ時間)、マイクロLED戦略の中核となるプロジェクトが「予期せぬキャンセル」となったことから、同戦略の見直しを行うと発表した。同社は顧客名を明かしていないが、市場調査会社などは、AppleがマイクロLED搭載「Apple Watch」開発を中止したことによるものと見ている。

200mmウエハーの新工場「今後の利用について再検討」

 ams OSRAMの発表によると、同社のマイクロLED戦略の中核となるプロジェクトが予期しないキャンセルとなったことを受けて、経営委員会が戦略の見直しを決定。マイクロLED戦略に関連する資産、特にマレーシア・クリムに拠点に建設している200mmウエハー対応のLED新工場について「今後の利用について再検討する」と説明した。ams OSRAMは同工場に約8億ユーロを投じ、2024年中の稼働開始を予定していた。同社は暫定的な試算に基づき、2024会計年度第1四半期に、microLED関連資産およびのれんに関して、減損損失として6億〜9億ユーロを計上する見込みとしている。また、研究開発費の資産計上額の減少および政府助成金制度による補助金の減少によって、調整後EBIT(財務および法人所得税前純損益)は3000万から5000万ユーロ減少する見込みだ。

Appleが30億ドル以上費やしたマイクロLEDディスプレイ開発

 マイクロLED搭載の新型Apple Watchは、2026年にも登場することが予想されていた。フランスの市場調査会社Yole Group(以下、Yole)が公開したレポート「Did Apple just kill the microLED industry?、和訳:AppleはマイクロLED業界を死に追いやったか?」によると、AppleはこれまでマイクロLEDディスプレイの開発に26億米ドル以上を費やし、2014年にはマイクロLEDディスプレイを開発する新興企業LuxVueを4億2000万米ドルで買収してきたが、2024年2月27日に開発中止がプロジェクトチームに伝えられ、チームのほとんどの従業員が(Yoleは350人以上のチーム全体と推定)が解雇されたという。Yoleは、同チームが前日まで通常の業務を行っていて、サプライヤーとのミーティングや消耗品の発注、ラボやパイロットラインでのテストや実験、ams OSRAMの新工場の進捗状況の確認などしていたと伝えている。

OLEDの進歩で「マイクロLEDの優位性が薄れてきた」

 アナリストらはOSRAMはプロセス開発や認証では順調だった一方、Appleは下流の製造で苦労していて、コスト効率の高い製造を実現するために不可欠なマストランスファー工程がまだ整っていなかったと見ているという。Yoleは、パイロットラインでの歩留まりは満足いくものではなく、その他の技術的な課題も残っていたと説明している。

 また、Yoleは、「何よりもOLEDの進歩によって有機EL(OLED)に対するマイクロLEDの優位性が薄れてきた」とも指摘。Appleが「Apple Watch Ultra」を発表した年、そのディスプレイモジュール全体のコストは50米ドルだったのが現在では40米ドルに下がっている一方、Yoleの試算によるとAppleのマイクロLEDディスプレイの初年度のコストは85米ドルを超える見込みといい、Yoleは、「このディスプレイの性能と機能性は、消費者にとって割高感を正当化するのに十分な差別化になり得るのだろうか? たとえアナリストが数年後にコストを35米ドルに下げる(不確実な)道筋があると見ていたとしても、OLEDの改良によって、Appleはもはやそうではないと判断したようだ」と述べている。

 台湾の市場調査会社TrendForceも2024年3月1日、このキャンセルの要因や影響について分析したプレスリリースを発表していて、サプライチェーンの供給不足がマイクロLEDパネルのコストを高騰させ、同サイズのOLEDパネルの2.5倍から3倍になる可能性があること、ams OSRAMの小型マイクロLEDチップは、コスト削減と冗長設計に有益である一方、高い転送精度が要求されるため、量産においてボトルネックとなっていることなどを挙げている。

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