Samsung Electronicsの半導体部門におけるトップ交代が発表された。同社は、生成AI(人工知能)で需要が伸びているHBM(広帯域幅メモリ)の競争で、ライバルのSK hynixに大きく出遅れている。今回の半導体部門トップ交代からは、Samsungの焦りが見える。
Samsung Electronics(以下、Samsung)の半導体部門にとって、2024年5月20日の週は、実に波乱に満ちた1週間となった。まず週初めには、同社の半導体部門のトップが交代するという予期せぬ事態が発生し、業界を揺るがせた。
Samsungは突如、半導体部門のトップであるKyung Kye-hyun氏を、DRAM/フラッシュメモリのベテランであるJun Young-hyun氏に交代させた。その理由は主に、現在SK hynixが市場をリードしているHBM(広帯域幅メモリ)事業においてSamsungが後れを取っていることに伴う“半導体チップ危機”にある。
ここで注目すべきは、Samsungは通常、経営陣の入れ替えに関する発表を年初に行うという点だ。しかし、HBM技術において後れを取っているために、メモリ分野の中心人物を、絶望的な状況のポジションに送り込む形となった。半導体部門の新たなトップの任命は、世界最大のメモリチップサプライヤーの危機感を反映している。
カスタマイズされたメモリ製品であるHBMは、ChatGPTのようなAI(人工知能)モデルのトレーニング向けとして適していることから、AIアプリケーションにおいて爆発的な成長を遂げている。HBMは、DRAMチップを垂直に積層することで、省スペース化と消費電力量削減を実現し、複雑なAIアプリケーションによって生成される大量のデータの処理をサポートする。
Samsungのメモリチップ分野のライバルであるSK hynixは、2013年に、同社にとって初となるHBMチップを開発した。それ以来、生産歩留まりの向上を実現しながら、このメモリ技術の開発に継続的な投資を行ってきた。メディア報道によると、SK hynixのHBM生産能力は、2025年まで予約でいっぱいの状況だという。
またSK hynixは、AIアプリケーション向けGPU市場全体の約80%を占めるNVIDIAにHBMチップを供給する主要サプライヤーだ。HBMメモリチップを、GPUなどのAIプロセッサと戦略的に組み合わせることで、データオーバーヘッドの問題を克服することが前提とされている。一方、Samsungは現在、HBM技術の後れを取り戻しつつあり、NVIDIAのAIプロセッサ向けHBMメモリの認証取得プロセスに入っているという。
NVIDIAの共同創設者でありCEOを務めるJensen Huang氏は、2024年3月に米国カリフォルニア州サンノゼで開催した同社の年次イベント「GTC(GPU Technology Conference)2024」において、SamsungのHBM3Eチップを“承認”し、GTC 2024の会場で展示されていたSamsungの12層HBM3Eデバイスの横に、「Jensen Approved(承認)」と記載した。その後、NVIDIAで検証プロセスを行っている。
業界では週初め、異例の経営トップ交代に驚かされたが、週末にはさらなる驚きが待っていた。
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