宮崎大学は、身の回りで放出される排熱を、効率よく電気に変換できるn型(Cu1-xAgx)2ZnSnS4(CAZTS)単結晶を開発した。n型多元系硫化物熱電材料としては最高値となる、熱電性能指数ZT=1.1を500℃付近で達成した。
宮崎大学工学部電気電子工学プログラム(GX研究センター兼任)の永岡章准教授らによる研究グループは2024年8月、身の回りで放出される排熱を、効率よく電気に変換できるn型(Cu1-xAgx)2ZnSnS4(CAZTS)単結晶を開発したと発表した。n型多元系硫化物熱電材料としては最高値となる、熱電性能指数ZT=1.1を500℃付近で達成した。
熱電変換技術は、自動車や工場、家庭内などから放出される未利用の排熱を再資源化、再利用するための技術である。試算によれば日本中で放出される年間排熱量は、原子力発電所で発電される数十基分に相当するという。そこでこれまでは、PbTeやBi2Te3といった熱電材料を用い、再資源化していた。ただ、有毒元素やレアメタルが含まれていることに加え、n型材料の熱電性能指数ZTが小さいなど、課題もあった。
基本的な熱電発電デバイスは、柱状に切り出されたp型とn型の熱電材料の両端を金属電極と接続するパイ型構造である。この時、熱電特性や安定温度がほぼ同等レベルの「p型材料」および「n型材料」を用いないと、高い性能は期待できないという。このため、ZTの大きいn型材料の開発が急務となっていた。
研究グループは以前から、環境調和型材料であるCu2ZnSnS4(CZTS)に注目。構成元素組成などを最適化しp型硫化物熱電材料で世界最高値となるZT=1.6を達成してきた。
今回はCZTSのn型化に向けて、Cu元素を同じI族元素であるAg元素で置換した。これにより、アクセプター欠陥を抑制し効率よくドナー欠陥を形成できることが分かった。この結果、CZTSにAgを混晶した(Cu1-xAgx)2ZnSnS4(CAZTS)単結晶で、x>0.4の組成によりn型化に成功した。しかも最適な組成制御を行うことで、ZT=1.1を達成した。n型CAZTS単結晶で熱電変換効率は3.4%となり、数百℃の温度差でミリワット級の電力が出力できることを確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.