産業技術総合研究所(産総研)と島根大学は、熱流と垂直方向に発電する新しい熱電材料「ゴニオ極性材料」を開発した。室温より高い温度域で使用する場合でも、熱劣化が生じにくい熱電モジュールの開発が可能となる。
産業技術総合研究所(産総研)と島根大学は2024年2月、熱流と垂直方向に発電する新しい熱電材料「ゴニオ極性材料」を開発したと発表した。室温より高い温度域で使用する場合でも、熱劣化が生じにくい熱電モジュールの開発が可能となる。
廃熱を用いて発電する熱電発電は、振動や騒音がなく原理的にメンテナンスフリーという特長がある。ところが、実用化されている熱電材料は、室温付近で動作するものがほとんどで、室温より高い温度域では性能が劣化するなど、耐久性に課題があった。
これらの課題を解決するため研究グループは、温度差方向と発電方向が直交する「横型」の熱電モジュールに注目した。この熱電モジュールを実現するため、1種類の材料中で電子とホールの移動方向が結晶方位によって異なる「ゴニオ極性材料」の利用が提案されているという。
産総研は今回、キャリア密度を精密に制御した「Mg3Sb2」と「Mg3Bi2」の単結晶を作製し、これらがゴニオ極性材料であることを発見した。第一原理計算によると、電子は材料中を等方的に伝導する。これに対しホールは異方的(縦方向のみ)に伝導する。両方のバランスによってゴニオ極性が発現するという。
キャリア密度が異なる試料を用いて実験を行った。この結果、Mg3Sb2単結晶は、キャリア密度が1018cm-3以下の時に、ゴニオ極性が発現した。1019cm-3以上の高濃度領域では、ゴニオ極性が失われ等方的となった。その原因は、Mg3Sb2が半導体であり、ホールの寄与が無視されるほど小さくなったためだという。
Mg3Bi2単結晶も同様に、ゴニオ極性を示すことが分かった。さらに、Mg3Bi2は半金属的な性質を持ち、電子とホールの両方が電気伝導に寄与する。このため、キャリア密度が1019cm-3以上の高濃度領域でもホールがキャリアとして機能し、ゴニオ極性を示すという。しかも、Mg3Bi2の電気抵抗率は20μΩm以下と極めて低く、横方向熱電性能指数「ZxyT」は室温において0.06であった。実験結果と第一原理計算の結果はほぼ一致した。
島根大学の研究グループは第一原理計算により、Mg3Sb2とMg3Bi2のゴニオ極性発現メカニズムを解明した。電子フェルミ面は球状をしており、電子が物質中を等方的に伝導する。これに対しホールフェルミ面は、平らな形状で縦方向のみにホールが伝導する。フェルミ面の異方性(バンド異方性)はMg3Bi2も同じであり、電子とホールの伝導異方性を制御することによって、ゴニオ極性が発現していることを確認した。
今回の研究は、産業技術総合研究所(産総研)省エネルギー研究部門の後藤陽介主任研究員、李哲虎首席研究員、村田正行主任研究員および、島根大学総合理工学部の臼井秀知助教らが共同で行った。
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