東京大学は、ナノ構造化シリコン薄膜を用いた熱電発電素子を開発、シリコン薄膜を用いた従来型の発電素子に比べ、10倍以上の発電性能を実現した。膨大な数の設置が予想されるセンサー向け自立電源としての活用を見込む。
東京大学生産技術研究所の柳澤亮人特任助教や野村政宏教授らによる研究グループは2024年5月、ナノ構造化シリコン薄膜を用いた熱電発電素子を開発、シリコン薄膜を用いた従来型の発電素子に比べ、10倍以上の発電性能を実現したと発表した。膨大な数の設置が予想されるセンサー向け自立電源としての活用を見込む。
年間1億個規模のセンサーが消費される社会「トリリオンセンサー社会」の実現に向け、環境中の未利用エネルギーから発電する「エナジーハーベスト」技術の応用が注目されている。その一つがゼーベック効果を利用した熱電発電である。既に熱電発電素子として実用化はされているが、より安価で環境に優しく、膨大な需要にも応えられるデバイスとして、シリコンを用いた素子が注目されている。
ただ、熱を通しやすいシリコンは、熱電材料としての性能に課題があった。この課題に対し、シリコンをナノ構造化すれば、熱電材料としての性能が飛躍的に向上することも分かっていた。しかし、その素子構造を作製するまでには至っていなかったという。
研究グループが開発した熱電発電素子は、ナノ構造を含む全ての構造を半導体プロセスで作り込んだ。発電素子は、ナノ構造を形成した発電素子基板に、マイクロスケールの熱流制御構造が作り込まれたシリコンキャップ基板を張り合わせた。半導体プロセスを用いて製造できるため、大量生産が可能である。
発電部となる厚み約1μmのナノ構造化シリコン膜には、直径が約260nmの円孔を設けた。円孔壁面の間隔は最小40nmとした。この値は、電気を運ぶ「電子」の平均自由行程よりも大きく、熱を運ぶ「フォノン」の平均自由行程よりも小さい。これによって、電気の流れを保ちながら、熱の流れを抑制することが可能となり、熱電発電素子の性能を向上できたという。
研究グループは、開発した熱電発電素子について、面積当たりの発電密度を測定した。素子の上下面間に与える温度差を大きくしていくと、発電密度は2乗で増加し温度差9Kでは100μWcm-2に達した。この値は、シリコン薄膜を用いた従来型の熱電発電素子と比べ10倍以上も高い性能だという。
さらに、熱電発電素子とセンサーや通信回路を一体化したセンサーモジュールを開発し、屋外環境における評価試験を行った。この結果、モジュールに対して最大10K以上、4日間平均で3K以上の温度差が得られることが分かった。素子面積を10cm2程度にすれば、平均して100μW以上の発電が可能になるという。
今回の研究は柳澤氏らを中心に、物質・材料研究機構の森孝雄分野長、ドイツフライブルク大学のオリバー・ポール教授および、セイコーフューチャークリエーション、TOPPAN、前田建設工業らが共同で行った。
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