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熱に関する基礎知識福田昭のデバイス通信(468) AIサーバの放熱技術(1)(1/2 ページ)

「Hot Chips 2024」の技術講座(チュートリアル)のテーマは放熱技術だった。CPU/GPUの消費電力が増加し、サーバやデータセンターの放熱技術に対する注目が集まっているからだ。本シリーズでは、Hot Chips 2024の技術講座などをベースに、最新の放熱技術を解説する。

» 2024年09月03日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

高性能プロセッサの国際学会で「放熱」が技術講座のテーマに

 サーバやデータセンターなどの放熱技術に注目が集まっている。演算処理を担うGPUとCPUの最大消費電力(熱設計電力(TDP))が増加しつつあることで、効率の高い放熱技術が強く求められるようになってきたからだ。

 このような動きを反映し、高性能プロセッサの国際学会「Hot Chips 2024」(2024年8月25日〜27日に米国カリフォルニア州パロアルトのスタンフォード大学で開催)では、技術講座(チュートリアル)のテーマに放熱技術が選ばれた。テーマの名称は「The Cooling of Hot Chips: How thermal technology is keeping up with the AI revolution(熱いチップを冷やす:AI革命を放熱技術はどのようにして維持するか)」である。

 そこで本コラムでは、Hot Chips 2024の技術講座などを参考にしながら、サーバやデータセンターなどを支える最新の放熱技術をシリーズで解説する。初回(今回)はおさらいとして、熱に関する基礎的な知識を述べる。熱力学や熱設計などに詳しい方々にとっては常識の事柄なのだが、どうかお付き合い願いたい。あるいは今回は読み飛ばしていただけると有り難い。

「熱エネルギー」は、本来は別のエネルギー

 「熱」とはそもそも何か、ということから始めよう。ほとんどの方は、熱は「エネルギー」だと理解していると思う。厳密には熱とは「エネルギーの移動」と定義される。「移動」という点がポイントで、エネルギーが移動しないと「熱」は生じない。

 そもそも「熱」というエネルギー、いわゆる「熱エネルギー」は放熱や冷却などの説明でよく使われるものの、正確には「熱」というエネルギーは存在しない。固体原子の格子振動エネルギー、気体分子の運動エネルギー(厳密には並進エネルギー)、液体分子の運動エネルギー、電磁波(光)のエネルギーなどを必要に応じて「熱エネルギー」と言い換えている。「熱エネルギー」という用語が使われる大きな理由は、言い換えることによって熱に関連した様々な物理現象を説明しやくなるからだ。

「熱とは何か」の説明 「熱とは何か」の説明[クリックで拡大]

温度と熱移動

 熱エネルギーの大小を定量的に示す指標が「温度」である。温度は高低で示す。高温と低温では、前者が相対的(低温と比較して)にエネルギーが大きく、後者は相対的にエネルギーが小さいことを意味する。

 熱移動の方向(熱エネルギーの移動方向)は一方向しかない。高温部から低温部へと移動する。熱移動によって高温部はエネルギーを失い、温度を下げる。逆に低温部はエネルギーを得て温度を上げる。高温部と低温部の温度が等しくなるまで熱移動が続く。温度が同じになると熱移動は停止する。この状態を「熱平衡(状態)」と呼ぶ。

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