筑波大学は、シャープペンシル芯の破断面を完全にグラファイト化することで、高品位な電子ビームの発生源として応用できることを実証した。低い電界強度で、しかも極高真空ではない環境でも、安定した放出電流が得られるという。
筑波大学は2025年7月、シャープペンシル芯の破断面を完全にグラファイト化することで、高品位な電子ビームの発生源として応用できることを実証した。低い電界強度で、しかも極高真空ではない環境でも、安定した放出電流が得られるという。
グラフェンやカーボンナノチューブといったナノ炭素材料は、細くて薄い形状や、高い化学安定性、耐熱性などに優れている。このため、先の尖ったナノ炭素材料は、高性能な電子ビーム源である電界電子放出材料として期待されている。ただ、ナノ炭素材料の配向や配置の制御が極めて難しく、これまでは実用的な電界放出電子源としての応用例が少なかったという。
今回は、適度にグラファイトフレーク(黒鉛粉)が含まれるシャープペンシル芯に着目。この破断面を超真空中で高温加熱して不純物を除去することで、破断面に対し適度な密度で垂直配向したグラフェンのエッジを露出させることに成功した。
その上で、シャープペンシル破断面からの放出電子分布を電界放射顕微鏡(FEM)で観察したところ、「ドラゴンフライパターン」と呼ばれる電子放射パターンを確認できた。さらに、放射電流のエネルギースペクトルを取得して理論計算を行ったところ、π電子の電子状態が反映されていることが分かった。これらの結果から、シャープペンシル芯先端のグラフェンエッジから電子放出が起こっていることを確認した。
実験に用いたグラフェンは、極めて薄い形状であるため電界が集中しやすく、通常より極めて低い印加電圧で電子放出が起こった。また、放射電流の変動は0.7%で実用レベルだという。その上、圧力が10-4Pa程度の環境でも安定した電界電子放出が可能となった。電流密度の総量も1.1A/cm2で、実用的な平面型電子源並みの値となった。
今回の研究成果について筑波大学は、日立ハイテクと取り組んでいる「日立ハイテクアドバンストSEM特別共同研究事業」の中で役立てていくという。
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