田中貴金属グループは2025年7月31日、創業140年を記念した記者説明会を開催した。同社の売上高の7割を占める産業事業では、半導体用材料の開発やカーボンニュートラル実現への取り組みを強化する。【訂正あり】
田中貴金属グループ(以下、田中貴金属)は2025年7月31日、創業140年を迎えたことを記念する記者説明会を開催した。1885年、両替商として創業した同社は、早々に工業用貴金属の製造販売へと舵を切る。同社代表取締役社長執行役員の田中浩一朗氏は「われわれは創業以来、一貫して貴金属の工業利用に尽くしてきた。われわれのDNAは製造業に属していると考えている」と語る。2016年には、工業用貴金属の製造販売を手掛けるスイスMetalorを買収。これをきっかけにグローバル化を加速しているさなかだ。
田中貴金属は主に、各種産業用貴金属製品の製造販売事業(産業事業)と、ジュエリーや貴金属工芸品、貴金属地金/コインの売買などを手掛けるリテール事業の2つを展開する。約1兆円の売上高のうち、収益ベースで産業事業は7割、リテール事業は3割を占める。
【訂正:2025年8月5日 16:40 当初、「産業事業/リテール事業の売上比率が7割と3割」としていましたが、正確には「利益比率が7割、3割」となります。お詫びして訂正致します。】
産業事業を展開する田中貴金属工業で代表取締役副社長執行役員を務める多田智之氏は、同事業の現状と注力分野を紹介した。
田中貴金属の産業事業は、貴金属8元素全てを取り扱い、半導体向け材料でも幅広い製品ラインアップを提供している。加えて、ガラス製造装置向けの白金加工品などの金属加工品や、貴金属のリサイクル事業も手掛ける。多田氏は「貴金属の総合メーカーとしての体制を構築している」と語る。
産業事業の売上高(加工費ベース)構成は、分野別では40%が民生、産業機器、20%が半導体、20%がモビリティ。ポートフォリオ別では、ボンディングワイヤが20%と最も大きな割合を占め、次に接点やリサイクル事業が続く。
ボンディングワイヤでは、ロジック半導体などで使われる金ワイヤや、パワー半導体用のアルミワイヤや銅ワイヤで世界トップクラスのシェアを持つという。特に車載用パワーデバイス向けでは、アルミワイヤやアルミリボンボンド、銅ワイヤ、銅リボンボンドを長年提供してきた。ボンディングワイヤの販売を手掛ける田中電子工業は、炭化ケイ素(SiC)パワーデバイス/モジュールでは、抵抗が低く、メッキの工程も必要ない銅ワイヤの使用が今後増えると述べる。一方で銅ワイヤには課題もある。銅ワイヤは硬いので、接合時にSiCのチップにダメージを与えてしまう。「銅ワイヤと同等性能を持ちつつ、アルミワイヤと同じ柔軟性を持つ材料が求められている。田中貴金属としてもそうした材料の開発を進めている」(田中電子工業)
パワーデバイス向けでは、より放熱特性が高い銀(Ag)系接合材などの開発も始めている。2025年1月には、低温で接合後、耐熱480℃になるダイアタッチ向けシート状接合材料「AgSn TLPシート」を開発したと発表した。多田氏は「特に半導体は、これから(売り上げが)伸びていく」と強調した。
パワーデバイスの接合材料以外でも、化学気相成長法(CVD)/原子層堆積(ALD)用の貴金属プリカーサーを開発するなど、半導体製造前工程分野にも力を入れる。「微細配線の形成に必要な高導電性金属薄膜をCVD/ALD法で形成するための金属錯体として、ルテニウム化合物を開発した。半導体製造プロセスの微細化が進む中、金属材料の知識は欠かせないと考えている」(多田氏)
一方で、自動車向けの白金(プラチナ)系貴金属の需要が大きく落ち込むであろうことを、今後の課題として挙げる。田中貴金属では従来、白金系貴金属の需要は半数以上を自動車向けが占めてきた。だがこれは内燃機関を搭載する自動車向けであり、「電気自動車(EV)ではプラチナの需要が大幅に減っていく。ここに手を打たないといけない」と危機感を示した。そこで新たな市場を創出することが重要だと語り、金属工学と化学工学、バイオ工学を掛け合わせた技術でカーボンニュートラルへの貢献を目指すことを挙げた。一例として、CO2から燃料を生成する際の貴金属触媒として、プラチナを使える可能性があるという。
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