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デバイスを「超省エネ」に導く IPOで製品展開を加速するAmbiqデータセンターの電力削減も可能に(1/2 ページ)

エッジAI用半導体を手掛ける米Ambiq。半導体を低消費電力で動作できる独自技術「SPOT(スポット)」を生かし、いずれはデータセンターへの展開を目指す。

» 2025年08月22日 12時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

40nmでは消費電力が16分の1に、省エネを実現する「SPOT」

 低消費電力の半導体ソリューションを提供する米Ambiqが、製品の市場展開を加速させている。同社は2010年、CTO(最高技術責任者)を務めるScott Hanson氏によって設立された企業で、「あらゆる場所でインテリジェントデバイスを可能にする」ことを目指す。約190人の従業員を抱え、現在までに累計2億7000万台以上のデバイスを供給している。2025年7月22日(米国時間)には新規株式公開(IPO)を開始し、7月31日時点で1億1000万米ドルを調達している。

 Ambiqの最大の特徴が、半導体の低消費電力化を実現する独自技術「SPOT(Subthreshold Power-Optimized Technology、スポット)」だ。SPOTは、その名が示す通り、CMOSにおいてサブスレッショルド電圧で半導体を起動できる技術である。Ambiq CEOの江坂文秀氏は「40nmのプロセスルールにおいて1.6Vだったスレッショルド電圧を、SPOTによって0.4Vにまで下げられた。消費電力は電圧の2乗に比例するので、スレッショルド電圧が4分の1になったということは、消費電力を16分の1に下げられたことになる」と説明する。SPOTは、江坂氏が「Ambiqの全て」と言い切るほど、同社にとって重要な技術である。

Ambiq CEOの江坂文秀氏 Ambiq CEOの江坂文秀氏
「SPOT」の概要。スレッショルド電圧を大幅に下げられるので、低消費電力を実現できる[クリックで拡大] 出所:Ambiq 「SPOT」の概要。スレッショルド電圧を大幅に下げられるので、低消費電力を実現できる[クリックで拡大] 出所:Ambiq

 AmbiqはSPOTをベースにしたSoC(System on Chip)「Apollo」を市場に投入してきた。最新ファミリーは第5世代となる「Apollo5」で、2024年4月にドイツで開催された「embedded world」では第1弾となる「Apollo510」を展示した。Apollo5では、第4世代Apolloで使っていたArmのCPUコア「Cortex-M4」を「Cortex-M55」に変更し、セキュリティを強化した。TSMCの22nm世代のプロセスを適用している。

 次世代品としては「Atomiq(アトミック)」を開発中だ。AtomiqはNPU(Neral Processing Unit)と広帯域メモリ(HBM)を搭載していて、2026年内にも登場する予定だという。プロセスはTSMCの12nm世代に変更する。CPUコアについては、Cortex-M55を使用するが、将来的にはCortex-M7またはCortex-Aクラスを使用する可能性もあるという。

Ambiqがこれまでにリリースしたチップ。「相当速いペースでチップを出している」と江坂氏は語る[クリックで拡大] 出所:Ambiq Ambiqがこれまでにリリースしたチップ。「相当速いペースでチップを出している」と江坂氏は語る[クリックで拡大] 出所:Ambiq

 AmbiqはSPOTをベースにハードウェア(Apolloなど)、ソフトウェア、AIソフトウェア開発キット(SDK)の3つをプラットフォームとして提供する。「AIはとにかく複雑で難しいので、使い勝手のよい開発ツールは不可欠だ」と江坂氏は強調する。AmbiqのSPOTベースのプラットフォームは、スマートウォッチからロボットアーム、ヘルスケアデバイス、自動車、データセンターまで幅広い用途で使えるという。

AmbiqのSPOTプラットフォーム[クリックで拡大] 出所:Ambiq AmbiqのSPOTプラットフォーム[クリックで拡大] 出所:Ambiq

 TSMCと密に連携していることもAtomiqの強みの1つだ。江坂氏は「SPOTは繊細な作り込みが不可欠な技術だ。製造条件がかなりしっかりとコントロールされている工場でなければ、Ambiqのチップを作ることは難しい」と説明する。それ故、ファウンドリーの選択は当初から重要視してきた。「TSMCとはAmbiq設立時から良好な関係を構築している。ニューヨーク証券取引所でIPOを行った際にも、TSMCから幹部が駆け付けてくれたほどだ」(江坂氏)

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