Ambiqはもともと、Apolloを主にスマートウォッチ向けに提供してきた。低消費電力のSoCであるApolloによって、スマートウォッチの電池寿命を伸ばせるからだ。スマートウォッチ「Garmin」などにも採用された実績がある。AmbiqのSoCの出荷個数は、累計で2億6500万個に上る。
江坂氏は、スマートウォッチ向けに出荷してきたこれまでが「Ambiqのフェーズ1」だとすると、現在はAIの台頭により「フェーズ2」に突入していると話す。「AIの世界がかなり速いペースで進んでいることで、(SPOTの)アプリケーションが一気に広がろうとしている」(同氏)
江坂氏は「ChatGPTの登場によって大きく変わった。今は顧客からアイデアが次々と出てくるようになっている。特に医療やヘルスケア分野は“待ってました”とばかりの勢いだ」と続ける。
一方、アプリケーションが一気に広がっていることで、チップ開発が追い付かなくなってきたという。エッジAIは、アプリケーションによって要件がさまざまに変わる。スマートグラスでは高解像度なディスプレイ表示が求められ、セキュリティカメラでは高精度かつ高速な顔認識が求められるといった具合だ。「現在のAmbiqのエンジニアリングリソースだけでは、こうした細分化されていく要求に応えきれない」(江坂氏)。AmbiqがIPOを行ったのも、資金を調達し、エンジニアリングチームを強化するためだ。
「Ambiqがチップをリリースするずっと前から顧客の製品開発は始まっている。顧客は最先端のエッジAI用チップを欲しがっており、次から次へとチップを出していく必要がある。これまでも十分に速いペースでチップをリリースしてきたが、従来以上のスピードが求められる。次世代のAtomiqすら、1種類だけでなく、3〜4種類を再来年(2027年)には出す必要があるほどだ」(江坂氏)
SPOTは、原理的にはさまざまな規模のLSIに適用できる。チップ1個では処理能力が足りない場合は、並列に接続することで処理能力を向上させられる。中でも、大きな省電力効果が期待できるのが大規模言語モデル(LLM)用のチップだ。LLM用チップにSPOTを適用すれば20〜30%の低消費電力化が期待できるという。「Ambiqの現在のターゲット市場はバッテリー駆動のIoT機器が中心だが、LLM用のチップも実現できるので、これからはターゲット市場をデータセンターなどにも広げていく」(江坂氏)。そのために、SPOTをIP(Intellectual Property)としてライセンス提供する準備も進めている。
江坂氏は「AmbiqはSPOTをベースにしているので、10年早かったら(市場が追い付かず)なくなっていた会社かもしれない」と話す。だが、さまざまなアプリケーションにAIが導入され、採用の検討も進んでいる今、電力消費量の削減は「待ったなし」の状況になっている。「TSMCなども、やはり省エネを課題にしている。SPOTのような低消費電力化の技術を、半導体の基本にしていく必要があるのではないか」と江坂氏は強調した。
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