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中国はどうEVバッテリー市場を支配したか 欧米のミスは「固体電池への幻想」品質への懸念は過去のものに(1/2 ページ)

中国は10年以上にわたって、世界電気自動車(EV)用バッテリー市場における戦略的な台頭を綿密に画策してきた結果、今や欧米メーカーに重大な課題を突き付けるほどの優勢を確立するに至った。中国はいかにして市場の支配を実現し、欧米はなぜ後れを取ったのか。

» 2025年09月04日 11時30分 公開
[Pablo ValerioEE Times]

 中国は10年以上にわたって、世界電気自動車(EV)用バッテリー市場における戦略的な台頭を綿密に画策してきた結果、今や欧米メーカーに重大な課題を突き付けるほどの優勢を確立するに至った。

 中国はバッテリー製造に関しては、政府の支援を受けた巨大工場から重要材料に関する独自技術に至るまで、ある業界専門家が「ほぼ外堀を固めた」と表現するほどの状況を確立していて、欧州や米国はそれに追い付こうと慌てふためいている。

 イスラエルのバッテリー技術メーカーStoreDot CEOのDoron Myersdorf氏は、米国EE Timesの独占インタビューの中で、地政学的/技術的情勢について厳しい評価をしている。同氏は「中国が築き上げた現在の地位は、10年以上前に『リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP)バッテリーを最優先する』という非常に賢明な長期的戦略を始動させたことによるものだ」と述べている。

 中国のこのような先見性は、自国の豊富な鉄鉱資源を十分に活用し、液体フェルミオン用複合材料の生産に関する知的財産を早い段階から開発したことによって得たものだ。

世界市場支配を目指した中国の長期戦略

StoreDot CEO Doron Myersdorf氏 StoreDot CEO Doron Myersdorf氏

 中国が三元系正極材(NMC、ニッケル/マンガン/コバルトが主成分)からLFPへと計画的に生産を移行したのは、単なる材料の選好ではなく、世界的支配への青写真を描いていたからだ。Myersdorf氏は「中国は既存のサプライチェーンや知的財産、稼働可能な巨大工場を活用すべく、10年前に長期的戦略を策定していた。こうした先見の明が、現在のLFP製造において世界的優位性を確立するという結果につながったのだ」と指摘する。

 この戦略的影響力は、かつて欧州でバッテリー分野のホープと称されていたNorthvoltのようなメーカーが現在苦境に追い込まれている状況からも明らかだ。Northvoltは、中国の装置や専門技術に依存していたことも一因となって、規模の経済や競争上の優位性を達成できなかった。

 中国は原材料を支配するだけにとどまらず、LFP化学分野を革新し、効率性を著しく向上させた。中国メーカーは、NMCでは安全上の懸念があるために設計不可能な大型セルをLFPで開発することで、BYDのブレードバッテリーや「CTP(Cell To Pack)」「CTC(Cell to Chassis)」「CTB(Cell to Body)」などのさまざまな設計コンセプトを開発した。

 Myersdorf氏は「こうした要因が組み合わさって中国は実質的にLFPの独占状態を築いた。この先少なくとも10年間、バッテリー市場における優位性を守るための外堀を固めたといえる」と説明する。

CATLがインドネシアのカラワンに建設する工場の完成イメージ CATLがインドネシアのカラワンに建設する工場の完成イメージ[クリックで拡大] 出所:CATL

 NMCはより長い走行距離や急速充電といった優れた性能を備えているので、現在もハイエンド車向けに採用されている。例えばStoreDotは「Polestar 5」のような10分間で充電が可能な技術を提供している。しかし、A/B/Cセグメントの小型自動車や商用車に向けては主にコスト面を理由にLFPが主要な選択肢となっていて、その供給は中国がほぼ独占している。

 もう1つの重要な要素である陽極用グラファイトでも、中国は世界の90%超という圧倒的な市場シェアを握っているとみられる。

 Myersdorf氏は「グラファイトは中国以外の国にも豊富に存在するほか、LFPと比べると知的財産がそれほど強力でないので、長期的には競争しやすいようにも思える。しかしこれは、中国が非常に巧妙に構築した、欧米を破滅へと追い込むためのさらなる一歩となるだろう」と述べる。

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