今回の規制によって大きな影響を受けるのは、韓国メモリ大手のSamsungとSK hynixだといえる。この韓国の2大メモリチップメーカーは、今回の政策転換による影響が最も大きいだろう。以下では、SamsungとSK hynixが中国に保有している半導体製造施設の概略や、高性能製造装置の不足がいかに深刻な影響を引き起こすのかという点について見ていきたい。
Samsungは、NANDメモリチップ全体の約40%を西安工場で生産している。NAND製造の他にも現在危機的状況に直面しているのが、128層から236/286層のNAND技術への移行だ。同社は現在、NDNAフラッシュを128層から236層のデバイスへと移行している最中だが、西安工場に対する規制は、この移行に対してだけでなく、世界NANDメモリチップ市場の供給にも影響を及ぼす可能性がある。
メディア報道によると、Samsungは西安工場の生産量を約10%削減することを検討していて、1カ月当たりのウエハー投入量を20万枚から17万枚に減らす可能性もあるという。
SK hynixは、VEU認定取り消しによる影響をSamsungよりも大きく受けるだろう。SK hynixが2006年に無錫に建設したDRAM工場は、同社のDRAM生産量全体の約40%を占めている。同社の韓国・利川の「M16」工場には、DRAM生産量を増やす余裕がある。このような混沌とした状況の中、市場調査会社Omdiaは「SK hynixのDRAM生産量全体に占める無錫の割合は、35%に減少する可能性がある」と予測している。
次に、SK hynixがIntelから買収したNANDフラッシュ工場は、同社のNANDメモリデバイス全体の25%を生産している。SK hynixは2024年に、無錫のDRAM工場と、大連のNANDフラッシュ工場、重慶のパッケージング工場に向けた半導体製造装置の調達に、約8300万米ドルを投じている。
韓国勢のDRAM/NAND生産は、そのかなりの部分を中国国内の工場が担っているようだ。もしこれらの工場が、韓国国内の工場に後れを取り始めるとなれば、業界全体に対する魅力を失う可能性がある。さらに長期的には、SamsungとSK hynixにとって、引き続き中国で工場を稼働していくことが難しくなるだろう。
また、韓国政府にとっては、現在米国政府との間で進めている関税協定交渉に加え、新たに地政学的な戦線が開かれることにもなる。
韓国の李在明大統領は先日、米国との協定締結に至ることなく帰国したところだ。そして今回のVEU認定取り消しにより、韓国は2大経済大国間の貿易戦争によるもう1つの犠牲者となっている。
SamsungとSK hynixは、メモリ生産を韓国や他国に分散することを検討するだろうか? それとも中国国内のファブをレガシーチップ生産に限定するだろうか?
サンミョン大学の半導体工学教授Lee Jong-hwan氏は韓国の英字日刊紙The Korea Heraldに対し、「中国国内のファブ閉鎖はSamsungとSK hynixにとって現実的な選択肢ではない。中国は両社にとって重要な市場でもある」とコメントしている。
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