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「メモリの壁」突破でエッジAIを次の段階に、CEA-LetiとST幹部が語る有力メモリ技術や3D統合の重要性(1/3 ページ)

EE Times Europeの独占インタビューで、CEA-LetiおよびSTMicroelectronicsが、エッジAIの普及/進化において重要な「メモリの壁」を突破するために進めている研究の最新状況ついて語った。

» 2025年09月08日 11時30分 公開
[Pat BransEE Times]

 演算性能は、ここ数年間で指数関数的に向上しているが、メモリ帯域幅やアクセス時間がそれに追い付いていない。これが、いわゆる「メモリの壁」だ。特に生成AIの普及によって、AIモデルが大型化/複雑化するに伴い、演算そのものよりも、メモリと処理装置の間のデータ移動の方がはるかに膨大な時間とエネルギーを必要とするようになってきた。

 ニューラルネットワークを動作させる行列ベクトル乗算ごとに、膨大な量の重みデータを何度も受け渡ししなければならず、このような絶え間ないデータ移動が、性能/効率性を実現する上での主な障壁となっている。

 フランスの研究機関CEA-Letiの高性能メモリ/コンピューティング部門責任者であるFrancois Andrieu氏と、STMicroelectronics(以下、ST)の研究開発部門担当ディレクター兼フェローであるGiuseppi Desoli氏は、EE Times Europeの独占インタビューの中で、両氏の率いる組織が、AIをエッジで実行するための方法をどのように模索しているのかについて語った。

メモリアレイの中で演算、IMCに集まる注目

 エッジ分野では現在、AIが、スマートフォンや産業用センサー、自動運転車、医療機器などのローカルデバイスへの組み込みインテリジェンスという形で急激に進化している。AIをエッジで導入することで、クラウドへの依存を回避し、応答時間の高速化や、データプライバシーの向上、伝送から生じるエネルギー消費量の削減、コネクティビティが制限されたエリアでのデバイスの自動操作などを実現できるようになる。

 一方で、エッジへのAI統合には、複数の新たな制約がある。それは消費電力の最小化や、低レイテンシ、小型フォームファクター、信頼性ニーズの増大などだ。研究者や業界は現在、こうした要件のために、既存のメモリアーキテクチャの再検討を強いられているのだ。

STMicroelectronicsの研究開発部門担当ディレクター兼フェローであるGiuseppi Desoli氏 出所:STMicroelectronics STMicroelectronicsの研究開発部門担当ディレクター兼フェローであるGiuseppi Desoli氏 出所:STMicroelectronics

 研究者たちは現在の制約を克服すべく、インメモリコンピューティング(IMC)に目を向けている。このモデルは、処理能力をデータの保存場所の近くに配置することで、エネルギー集中型のデータ移動を最小限に抑えることが可能だ。これは、特にエッジAIの場合に有望だ。

 IMCは、メモリアレイそのものの中でローカル演算を実現でき、エネルギー効率/性能の面で新たな扉を開くことになる。ただ、このようなメモリの要件は非常に厳しい。

 例えば、複雑なモデルの重みを十分に保持することが可能な密度や、リアルタイム推論を実現可能な高速性と高電力効率、継続使用に対する高耐久性、小型の垂直統合型ハードウェアとの互換性などが不可欠だ。

「車載AIの重要な鍵」、共同開発のPCM

 最も有望視されている技術の1つが、STとCEA-Letiが共同開発した相変化メモリ(PCM)だ。Desoli氏によると、PCMは高密度と不揮発性、信頼性を組み合わせたことで、特に、堅牢性と「ゼロデフェクトトレランス」が非常に重要とされる車載用AIアプリケーションに最適だという。同氏は、「われわれは既に、高密度PCMとSRAMベースのインメモリコンピューティングとを組み合わせた、ハイブリッドアーキテクチャのプロトタイプを開発している。

 この組み合わせは密度と性能の両要件を満たすことができ、特に、AIが先進運転支援システム(ADAS)の枠を超えてゾーンアーキテクチャや低価格機能へと進んでいく中で、台頭する自動車AIのユースケースにおいて重要な鍵となる」と述べている。

 Desoli氏は「しかしPCMは、STが取り組んでいる唯一のIMCアプローチというわけではなく、自動車分野だけを唯一の検討対象としているわけでもない。幅広い民生/産業製品にまたがる、エッジAIのイネーブラーだ」と述べる。

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