Andrieu氏は、より広範なメモリイノベーションのエコシステムについて概要を説明している。
CEA-Letiは、PCMの他にも、OxRAM(Oxide-based RAM)や磁気抵抗メモリ(MRAM)、強誘電体メモリ(FRAM)などのさまざまなアプローチを研究しているという。各メモリには、それぞれ特有のメリットがある。例えばOxRAMは、コスト重視のAI専用ユースケースに最適だ。
MRAMは、高速書き込み環境において優れた堅牢性を提供する。そしてFRAMは、エネルギー効率と耐久性が非常に優れている。同氏は「生成AIでは、絶え間ない演算処理によってメモリデバイスの一部に圧力がかかる。われわれがFRAMに投資しているのは、耐久力に優れ、低消費電力が低いからだ」と述べる。
Andrieu氏は「1つで全てに対応できる『One-size-fits-all』型のソリューションは存在しない。それぞれのアプリケーションに必要な技術は、それぞれに異なる。CEA-Letiは、主にSTやイスラエルのメモリメーカーWeebit Nanoのような企業との協業によって、引き続き複数のアプローチを並行して追求していく」と述べている。
メモリと演算の統合は、材料やデバイス物理学の問題だけではない。システムアーキテクチャの中でも特に3D統合が関与する問題でもある。Andrieu氏によると、3D統合は、メモリ容量の増加や、異なる技術およびCMOSノードの統合を可能にするため、AIには不可欠だという。同氏は「高密度の垂直インターコネクトで、メモリと演算をもっと密接に連携させることで、帯域幅を高めてレイテンシを低減できる」と述べる。
CEA-Letiは、ロジックとメモリを同じウエハー上に直接構築する、モノリシック3D統合のイノベーションをけん引している。一方、ハイブリッドボンディングは、個別に作られたレイヤーを接合するために使用する。Andrieu氏は「モノリシック3Dデバイスは、最高密度を達成できるが、チップやウエハーを集積するハイブリッドボンディングも、もう1つの効果的なアプローチだ。いずれの手法も、データ転送の遅延を最小限に抑えながら性能を向上させる」と述べている。
Desoli氏は「STは長年にわたり、特に光コンポーネントとデジタルコンポーネントを組み合わせたイメージングセンサーで、ハイブリッドボンディング利用し製造してきた」と語る。ハイブリッドボンディングは、センシングを取り入れたエッジAIデバイスに向けて、市場への実践的かつスケーラブルな道筋を提供する。モノリシック3D積層は、ゲートレベルでより高い精度と柔軟性を実現するが、特に設計オートメーションツールに関する新たな課題を生み出している。Desoli氏によると、ロジックを垂直層全体にパーティショニングすると、2D設計の問題がもっと複雑な3D設計の問題に変化してしまうという。とはいえ、同氏とAndrieu氏はいずれも、3Dインテグレーションの長期的な有望性については楽観視しているようだ。
Desoli氏は、3D積層システムの最も困難な課題の一つとして、熱管理を挙げる。「メモリ層と演算層が密接に積層されるにつれ、中間層で熱が蓄積し、信頼性と性能を脅かす」(同氏)
STではこの課題に対応するため、EDAベンダーと連携し、熱シミュレーションを設計ワークフローに統合している。Desoli氏は「AIによって高速化されたマルチフィジックスシミュレーションツールが放熱の効率的なモデリングを支援し、設計者がより短時間でより多くのバリエーションを検討可能にする」と語っている。一方でCEA-Letiは、ホットスポットを最小化するための回路と物理レイアウトの共同設計を進めるとともに、放熱性を高める新素材と構造の開発に取り組んでいるという。
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