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エッジAI同士が協調 フィジカルAIで目指す「全体最適の製造DX」エイシング CEO 出澤純一氏(3/4 ページ)

» 2025年09月30日 10時30分 公開
[浅井涼EE Times Japan]

エッジAI同士が協調して工場を最適化する「スマートインダストリー構想」

――今後実現を目指す技術や事業について教えてください。

出澤氏 データドリブンな工場を築くうえでは、AIやデータだけでも、現場の知見だけでもいけない。それらを複合的に混ぜ込んでどういった姿を目指すかという点で悩んでいる顧客は多い。それに対してエイシングが打ち出しているのが「スマートインダストリー構想」だ。

スマートインダストリー構想の適用イメージ スマートインダストリー構想の適用イメージ[クリックで拡大] 出所:エイシング

出澤氏 自動車の製造ラインを例に挙げると、金型の不良検知AIや溶接の良否判定AIといった個別のソリューションはこれまで何十件と手掛けてきた。しかしそれではきりがないので、工場全体の最適化を目指すというものだ。

スマートインダストリー構想の各段階 スマートインダストリー構想の各段階[クリックで拡大] 出所:エイシング

出澤氏 この構想は3段階に分かれている。第1段階では各工程から連続データを取得して、個別の設備に生じる物理現象を本質的に理解し表現する。言語処理を得意とする大規模言語モデル(LLM)ではなく連続データを扱えるフィジカルAIを用いることで、表面的な相関ではなく、その裏にある、ニュートンが発見した万有引力のように本質的な法則を獲得するというもので、エイシングでは既に手の内化に成功した。

大規模言語モデルとフィジカルAIの比較 大規模言語モデルとフィジカルAIの比較[クリックで拡大] 出所:エイシング

出澤氏 第2段階では、第1段階で獲得した法則の上で、設備に生じる個別課題を自律的に解決する。従来、同じ設備に「良否判定」「異常検知」「制御の改善」など複数のエッジAIを導入するには、それぞれ別に開発する必要があった。しかし、エイシングでは第1段階で獲得した共通する法則に基づいて、開発期間を大幅に短縮できるようになった。これまでエッジAI開発には1年半ほどかかっていたが、場合によっては1〜2カ月で完了する。

 今後目指す第3段階は、エッジAI同士が協調し全体を最適化することだ。これが実現すれば、各工程のデータ連携で人間が気付かない因果関係をひもとける。それによって、「溶接工程の電流値が高くなっていて、溶接自体は成功したが他の部分に火花が散っていて最終的に不良品となった」というような個別のAIだけではカバーしきれない問題にも対処できる。

 ただし、これは人間には解釈不能な形で表現されるので、AIによる最適化を解釈するのが人間の仕事になるだろう。スマートインダストリー構想は現場の技術者がAIに教えることもあり、逆に技術者がAIから教わることもある、人と機械が一体になるようなシステムだ。ここまではまだ誰も到達できていないが、2028年頃をめどに実現したいと考えている。

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