危機の全体像を時間軸で整理する。以下は、He供給途絶またはナフサ/PFAS供給逼迫のいずれかに本格的なショックが発生した場合のシナリオである。
最初のフェーズで何が起こるか:
チップメーカーと装置メーカーは手持ち在庫でしのぐことになる。ここでは、He、FFKMシール、PFPE潤滑油の在庫消費が始まる。しかし、補充はされない。その結果、時間がたつほど、保守部品のリードタイムが伸び始める。
その後、Heやナフサ起因の部品や材料の価格が高騰する(予測では2〜5倍)。すると、どのような景色が見えるだろうか?
この段階では、「まだ在庫があるから大丈夫」「価格が上がっただけ」という楽観論が支配的になる(一部の企業を除けば実際そうなっている)。政府も、「備蓄があるから問題ない」と発信する傾向がある。
例えば、経済産業大臣は記者会見で「米国などからの代替調達の進展や、国内在庫の活用、国内精製を組み合わせることにより、化学品全体の国内需要約4カ月分を確保している」と述べた。こうした説明は石油備蓄法の枠組みの延長線上で、一見合理的に聞こえる。しかし、これが最も危険な誤認である(この点は第6章で詳述する)。
この時期まで中東情勢の悪化が続くと、何が起こるか:
このような状態になると、半導体業界では何が起きることになるか。
この段階での産業対応としては、チップメーカーは歩留まり維持のため、使えるリソースを先端ノードに集中させる。結果として、中位ノード(7nm〜28nm)およびそれ以上の成熟ノードなどの生産が先に圧迫される。これは自動車半導体、産業用半導体、民生用半導体の供給逼迫を招くことになる。
ここまで、事態が悪化し続けると、一体何が起こるだろうか。
そうなると、世界の半導体産業はどうなるだろうか。
この段階での半導体工場では「止まっていないが動いていないし、チップもつくれない」という状態が広範に発生する。装置は並んでいるが、プロセスが認定を通らない。これは従来のBCPフレームワークでは捕捉できない事態である。
半年以上、中東情勢の悪化が続けば、半導体業界の惨状は目を覆うものになる。
以上の事態は、以下を引き起こすことになる。
回復時間について分析すると、一度断絶した認定サプライチェーンの再構築には、SEMI S2/S8認定、QVL(Qualified Vendor List)の再取得、プロセス再認定が必要であり、18〜24カ月を要する。これでも、最も楽観的なシナリオである。代替材料開発を伴う場合、3〜5年を要する。
このタイムラインで最も重要なのは「問題が見えるようになった時には、既に手遅れ」という非対称性である。
現在(本稿執筆時点)は、第1フェーズと第2フェーズの境目にあると考えられる。Heのスポット価格は高止まりを続け、PFAS規制は進行中、ナフサ供給逼迫があちこちで散見される。つまり、「まだ何も起きていない」のではなく、「これから急激に見えるようになる」局面にある。
警告は、危機の非線形性を過小評価してはならないということである。第1〜2フェーズでは表面的には静かに見える。しかしこの期間の対応の有無が、第3〜4フェーズの深刻度を決める。静かな期間こそ、最大の行動期間である。
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