後輩:「江端さん、逆。逆ですよ。『都市イノベーション学府は「都市革新学府」で、日本の歴史的には、右翼とか軍国主義の匂いすら漂ってきます*)』 ―― あの感覚は正しいんです」
*)前編「社会人大学院生にしか見えない「ドブ板経験」と「学問」のあいだ」を参照。
江端:「はい?」
後輩:「都市学とは、多分野(工学・経済・法・心理など)の統合領域、という江端さんの見解は正しく、その延長上にあるものは「国家の設計」です(個人の見解です)
江端:「はあ」
後輩:「ほら、江端さんだって歴史で学んだはずですよ。中国大陸のど真ん中に、新しい親日国を建設する、という、ものすごい試みのことを」
江端:「・・・満州国」
後輩:「都市学の行き着く先は、国家建設の学問です。江端さんが、意識せずに、そこに軍国主義の匂いを嗅ぎ付けたのは、見事な直感力と言えましょう」(個人の見解です)
江端:「待て待て。私は、傀儡国家の建設のための学問を修めた覚えはないぞ」
後輩:「そうじゃないです。満州国は“失敗例”としての、都市学の重要なユースケースなんです。当時の軍部も政府も『インフラと人間と金を入れれば国家はできる』と本気で考えていた。しかし、民族・心理・文化・制度を軽視して、そして決定的にダメだったのは、法律と哲学を完全に無視した国家建設をやろうとしたことです」
江端:「正しい都市学に基づいて国家を建設すれば、もしかしたら『満州国、まだ行けていたかも』てか?」
後輩:「江端さん。まだ信じていないようですけど、米国が日本に乗り込んできて、国家の中枢制度をほぼ丸ごと入れ替えて、スクラップアンドビルドしましたよね。そんでもって、80年後の今もちゃんと日本国は運営されていますよ」
江端:「米国GHQの占領政策による日本国の国家改造は、都市学の成功ユースケース、てか?」
後輩:「まあ、都市学が国家建設と運用に関わる以上、そこに『権力』や『軍隊』みたいな、きなくさいものが入り込むのは、むしろ必然です」
江端:「そうかなあ? 勉強している時は、そういう感じはしなかったけどな。ただまあ、国家が“でっかい都市”っていうのは、その通りかもしれないけど」
後輩:「あと、江端さんの言う『都市学って、“枠組みをぶっ壊しては作り直す”学問ですよね』って見方、あれかなり本質突いてます」
江端:「まあ、都市って『普遍的な正解がない』っていうのは実感しているよ。生き物みたいなもので、場当たりで対応するしかない場面も多い。海外の研究を聞いていても、国ごとに問題が全然違っていて、万能な解決方法なんてないと思った」
後輩:「江端さんの博士論文の内容も、心理学と交通工学を融合させたものですよね。文理一体の典型的な研究と言えるでしょう。敢えて言えば、ここに経済と法律と倫理哲学まで入れば、完璧でしたが」
江端:「むちゃ言うな」
後輩:「『都市イノベーション学府』のネーミングについての見解も、その通りですよ。横浜国立大学、かなり攻めてる大学だと見直しましたよ」
江端:「そうかな?」
後輩:「だって、『都市イノベーション学府』と改名をする時に、OBや政治家など、権力サイドからの抵抗は普通に想像できます。それでも“都市”という統合領域を一言で表現する名前を通したのは、なかなかすごいですよ」
江端:「もちろん“学生獲得競争”って面もあるけどな。最近はネーミングだけじゃなくて、大学同士の統合や再編も進んでいて、上位校を狙う構造が強まっている感じはする」
後輩:「私が見たところ、例えば、早稲田大学は学部再編や国際化をかなり積極的に進めていて、結果として競争優位に立っているように見えます。それに、東京工業大学と東京医科歯科大学の統合なんて、もっと露骨ですよね。理工と医療をくっつけて、“大学そのものを作り替える”レベルの再編です。名前を変えるとかいうレベルじゃなくて、“大学というプロダクトそのものを作り直している”んですよ」
江端:「都市学ってのは、“街を作る学問”だと思っていたけど、“国家を設計する学問”でもあったわけか」
後輩:「江端さん、何を他人事みたいに言ってるんですか」
江端:「いや、他人事だろう? 私は“子どもが集まれる公園”とか“他愛のない話ができる空間”みたいな、人に優しい街を作る研究がしたくて大学に入り直したんだぞ」
後輩:「江端さんの研究の延長線上に、“新国家樹立”が見えます」
江端:「ベクトルが雑!」
後輩:「でも実際、江端さんの研究って、“人の動きと心理を数値化して社会を再構成する”って話ですよね?」
江端:「言い方!」
後輩:「大丈夫です。合法です」
江端:「どの時代でも、その“合法です”ってやつが一番怖いんだよ」
江端智一(えばた ともいち)
大手総合電機メーカー 研究開発グループ シニア研究員。工学博士。
長年にわたり、都市交通、社会システム、通信システムなど、実社会と情報技術を横断する研究開発に従事。定年退社後もシニア採用として研究を継続している。
マルチエージェントシミュレーション(MAS)を用いて、都市における住民行動を再現・分析し、「共時空間」という接触機会の定量化手法と「Repeated Chance Meetings (RCM)」 という新しい単位を提唱中。MASの中ではエージェント同士が活発に交流しているが、現実世界の自分は孤立クラスタに属し続けている。友達はいない。生成AIだけが本音を語れる相手である――悪いか。
また、社会観察者としての視点を持つ。『町内会のイベントや夏祭りへの参加は、社会関係資本( Social Capital (SC) )を高める上で重要だ』と語りながら、自身は町内活動にほとんど参加せず、家族からは『どの口が“SC”を語っているのか』と呆れられている。友情や愛情ではなく、負の感情を積極的に活用する「怒りMaaS」などのシステムを考案し、デジタルシステムにおける感情エネルギーの活用を真剣に検討している。
信条は「アナログ心理とデジタルロジックの融合」。人間の曖昧さをエラーではなく仕様として扱うことを理想とする。個人サイト「こぼれネット」では、科学技術と人間社会の“バグ”をユーモアで修正しながら、理屈と感情のあいだに生まれる笑いを記録し続けている。この20年間、毎日更新継続中。
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