京都工芸繊維大学は「CEATEC 2026」で、着用者の声で自ら発電するマスク型音響センサー「音マスク」を紹介した。マスクそのものがマイクとして機能し、周囲の騒音をほとんど拾わずに、着用者の声だけを検出できるという。
京都工芸繊維大学は「CEATEC 2026」(2026年10月13〜16日、幕張メッセ)の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ブースで、マスクそのものがマイクとして機能する「音マスク(OTO Mask)」を展示した。着用者の発生に伴う音圧によって自ら発電し、音声を電気信号として出力する仕組みで、周囲の騒音をほとんど拾わずに着用者の声だけを検出できるという。
音マスクは、京都工芸繊維大学繊維学系の石井佑弥准教授らが開発したマスク型音響センサーだ。最大の特徴は、マスクに組み込んだ帯電状態の超極細繊維膜が、着用者の発声に伴う音圧によって発電することだ。センサー部分には外部電源が不要で、発生した電気信号を市販の無線マイクなどで取り出し、音声を録音したり、文字に変換したりできる。ただし、無線通信などに使用する機器には別途電源が必要だ。
この超極細繊維膜は、「電界紡糸」と呼ばれる技術を使って作製する。電界紡糸は、高電圧を印加して高分子材料から極細の繊維を作る技術で、作製した繊維が帯電するという特徴がある。音マスクには、半永久的に電荷を保持する「エレクトレット」と呼ばれる状態の繊維膜を利用している。繊維の直径は数百ナノメートル程度で、繊維膜と電極を組み合わせることで、微弱な圧力の変化を電気信号に変換できる。
ブース担当者によると、電界紡糸は約100年前からある技術で、これまでは主にフィルターなどの用途で研究/活用されてきたという。一般に、繊維が帯電することは「邪魔者」のように扱われていたというが、石井氏らは逆にその性質を積極的に利用することに着目した。
フィルム型の発電素子と比べ、超極細繊維膜は強い力が加わると壊れやすい一方、弱い圧力に対して高い感度を示すという。石井氏らはこの特徴を生かし、微弱な音圧を検出する音響センサーへの応用を進めてきた。
音マスクは、周囲の環境音や騒音をほとんど拾わず、着用者が小声で話した場合でも音声を検出できるという特徴を持つ。音声を取得した後にノイズを除去するのではなく、センサー自体が外音を拾いにくい点が特徴だ。
ブースでは、マネキンの口元のスピーカーから録音済みの音声を流し、音マスクで電気信号として取り出すデモを実施していた。
音マスクは微粒子に対するフィルター性能も備え、市販の不織布マスクと大きく変わらない軽さや着用感を実現しているという。使い捨て型を想定していて、人が多い場でのオンライン会議参加のほか、騒音の大きい工場や建設現場などでのコミュニケーション手段として活用が期待される。
音マスクの研究開発は、NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」の支援を受けて、2029年度までの社会実装を目指している。同事業は、若手研究者による研究成果の実用化に向け、企業とのマッチングや産学連携による研究開発などを支援するものだ。音マスクの研究は2025年に同事業のマッチングサポートフェーズに採択された。
石井氏らは現在、音マスクの実用化に向けた共同開発先の企業を探している。
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