ちまたには「人工知能」という言葉が氾濫しています。ですが、明言しましょう。「人工知能」という技術は存在しません。そして、私たちがイメージする通りの「人工知能」の実現も、恐らくはまだまだ先になるでしょう。
今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして“AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような“知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー
後輩:「何でも知っている江端さん。教えて欲しいことがあります」
江端:「何でもは知らないわよ。知っていることだけ*)」
*)「化物語(上)」西尾維新(講談社BOX)
という私のせりふをスルーして、あの無礼な後輩は、携帯電話から続けました。
後輩:「江端さんなら、ウチの会社のAIのメカニズムを理解していますよね。ワンセンテンスで説明してください。いろいろ調べたんですけど、どうしてもよく分からないんですよ」
私は、物事や事象や技術を、乱暴に要約するコラムを売りとしているライターですので、最近、この手の質問を受けることが多くなってきたような気がします。
江端:「ああ、『それ』ね。んーっとね、それは……」
と、前置きして、私が私なりに理解した、我が社の人工知能のメカニズムについて、言われた通り、ワンフレーズで説明しました。
後輩:「ええ! そういうことだったんですか!? 驚きました。でもそれって“人工知能”と呼べるものなのですか?」
江端:「だから、私がいつも言っているだろうが。『製作者が“人工知能”と主張すれば、誰がどう反論しようが、それは“人工知能”になる』と(”江端ドクトリン”も、ここから生まれています)。
以前、私は、本連載と並行して執筆している連載「世界を『数字』で回してみよう」にて、全13回にわたる「ダイエットシリーズ」の中で、膨大なデータ解析とシミュレーションを行ってきました(「今こそ問いたい――そのダイエット、本当に必要ですか」)。その結果、どのデータ、どの計算、どのシミュレーションにおいても、常に結論は同じものになりました。
「『楽々ダイエット』なるものは、絶対的な意味において存在しない」です。
それはさておき、私が、この膨大なこのデータをまとめるために、何をやってきたと思いますか?
日本中のダイエットブログのほぼ全部(数百オーダー)を、全て自分で読んで、その内容を理解して、ダイエットの開始から挫折までの日数の推定を、全て、手入力、手計算だけで行ってきたのです。私は、連載期間中の週末の20時間近くを使って、この作業をひたすら続けてきたのです。
この時、私はつくづく思ったものです。
―― “人工知能”とやらは、一体何をやっとるんだ
と。
なぜなら、私たちが期待する“人工知能”って――
(江端、コーヒーカップを片手に優雅に話しかける)
「ナンシー(=コンピュータブレイン)。ネット上のダイエットに関するブログを全検索して、内容を10程度カテゴライズしたものを表示してくれ。カテゴライズの方針は任せる。あ、それと、ダイエット挫折までの平均日数とその標準偏差も加えてほしい」
(ナンシー、スピーカーを介して応答する)
「マスター。命令、拝受致シマシタ。完了時刻ハ15秒後ヲ予定シテオリマス」
―― と、こんなシステムではなかったでしょうか。
もちろん、恐しい程の手間暇をかけて、データ処理を行うか、あるいは専用のプログラムを作成すれば、これらを実現することは可能となるかもしれません(音声解釈の部分はまだ難しいかな)。
しかし、私たちは、そういう手間暇が「面倒くさい」からこそ、“人工知能”に期待しているんです。私たちが欲しいものは、私たちが普通にやっている「面倒くさい」ことを、確実にやってくれる人工知能です。
だから思うんですよ。
―― 将棋や碁が強かったり、猫の顔を認識できることが、そんなに「エラいこと」か?
と。
私なら、ゲームをしたり、ネコの写真を集めたりしている“人工知能”がいたら、怒鳴りつけますよ。
「将棋や碁やネコの絵を見て遊んでいる暇があったら、とっとと私の命じた仕事をやれ!」
「でも、ネコの画像は、それはそれで集めてほしい……」(by 編集担当(ネコ好き。夢はネコにまみれること))※画像はGoogle検索結果の画面をキャプチャーしたものです。クリックで拡大すると、もっとネコが増えますよ……。
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