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「宇宙雷」を観測する小型衛星、果たして民生品は役に立ったのか製品解剖(2/3 ページ)

» 2009年07月24日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

民生用CCDカメラを活用

 衛星下面(地球を向く側)には、スプライトと雷を観測するための合計3台のカメラと、ガンマ線センサーなどを搭載した(図3)。

 3つのカメラのうち2つは、視野角が29度と狭いCMOSカメラである。従来から宇宙環境で使われてきたタイプで、画素数はいずれも512×512画素である。1画素当たりの視野角を計算すると0.078度で、地上での距離分解能に換算すると1kmになる。「スプライトの位置や構造を把握するのに十分な値」(吉田氏)だという。

図 図3 観測装置やセンサー、アンテナを所狭しと搭載 スプライト観測用と雷放電観測用のCMOSカメラをそれぞれ1つ、雷放電観測用CCDカメラを1つ搭載した。このほか、恒星撮像用CCDカメラ(スター・センサー)を試験的に搭載した。衛星の姿勢制御に使う伸展マストは、雷放電に伴う電磁波放射を観測するためのVLF帯アンテナも兼ねている。出典:東北大学大学院理学研究科/工学研究科の資料を基に本誌が作成

 対応波長は1つが赤色に相当する762nm、もう1つは赤色から近赤外線に当たる740n〜830nmである。このように、それぞれ違う発光波長の光を観測するカメラを搭載したのは、落雷とスプライトの発光を分離するためである。両者はほぼ同時に発生する。従って、背景光に相当する雷の発光を、波長が762nmのスプライトの発光から分離する必要がある。

 残るもう1つのカメラは、視野角が134度と極めて広いCCDカメラ(WFC:Wide Field View Camera)である。画素数は640×640画素で、地球全体の雷の発生頻度や分布を把握するために使う。このカメラに関しては、宇宙環境で使うことが想定されておらず、価格が数十万円程度の民生分野向けを転用した。放射線を照射したり、周囲温度を変えたり、真空環境下で使ったりという環境試験を事前に実施した。「打ち上げ後、このCCDカメラで地球を撮影して、問題なく使えることを確認した」(同氏)。カメラ以外の部分は、多層断熱材(MLI:Multi Layer Insulation)と呼ぶ特殊な被覆材で覆われている。

図 図4 姿勢制御用マストを伸ばす仕組みに苦心 伸展マストは、BeCu(ベリリウム銅)材料を使ったバネで伸び縮みさせる。図中の円筒部分が重量3kgの重りである。バネが伸びないように、ナイロン線(図中の青い線)でロックされた4つのつめで抑えてある。打ち上げ時の振動に耐えられるかどうか伸展機構の共振解析を繰り返した。出典:東北大学大学院理学研究科/工学研究科

 一方の衛星上面の中央部には、衛星の姿勢を制御するための伸展マストを、宇宙空間へ突き出すための穴がある。伸展マストの先には3kgの重りがあり、マストは最大1m伸びる(図4)。姿勢制御の仕組みそのものは、地球の重力を利用して姿勢を安定させる「重力傾斜安定方式」と呼ぶ一般的な手法である。ただ、伸展マストを引き延ばす仕組みに苦心したという。「打ち上げの際に間違ってマストが伸びてしまうと、メインの衛星を破損させるリスクが生じる。これだけは絶対に避ける必要があった。確実に動作すると確信を持てるまで、試行錯誤を繰り返した」(同氏)。

 伸展マストは、BeCu(ベリリウム銅)材料を使ったバネで伸び縮みさせる。格納時には4つのつめでマストを押さえる構造になっており、つめはナイロン線でロックされている。このナイロン線をニクロム線の熱で焼き切るとマストが伸びる仕組みである。必要になるまではニクロム線のスイッチが入らないようにしたり、1本のナイロン線だけではなく複数のナイロン線を使ったりという工夫を施した。つめの形状やクリアランス(すき間)の設計に苦心したという。

 姿勢の制御にはこのほか、衛星内の電磁石と地球磁場の相互作用で生まれる磁気モーメントを利用する「磁気トルカ」も使う。姿勢や位置は、太陽センサー(太陽電池セルの出力比率)や3軸地磁気センサーで検出した。3軸地磁気センサーは民生用途のものを転用した。

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