小型衛星の頭脳に相当する制御ボードは、複数のFPGAやマイコン、A-D変換器IC、メモリーICといったさまざまな半導体部品で構成した。複数のFPGAのうち、制御ボードで中心的な役割を担うのは、放射線が照射されてもビット反転などのロジック・エラーが発生しにくい放射線耐性品を採用した。それ以外は汎用のFPGAを活用した。
AAC社と共同で開発したTAMUは、民生分野に向けたさまざまな半導体部品が衛星の制御ボードで使えることを見定めるために、試験的に搭載したものである(図5)。安価な民生分野向けを宇宙で使おうにも、実際の宇宙環境を地上で模して試験するのはなかなか難しい。そこで、小型衛星の副次的なミッションとして、宇宙空間での実試験データの取得を盛り込んだ。「相乗り小型衛星を活用して、実際の宇宙環境で試験するというパターンは、今後増えていくのではないか。今回は、そのテスト・ケースとも言える」(吉田氏)。このほか、先駆的な取り組みとしてMRAMの動作試験も実施した。「MRAMは(放射線が強い)厳しい環境で使えるメモリーとして注目されているものの、今のところ実際に宇宙環境で使われたことは一度もない」(吉田氏)。
TAMUに動作試験用に実装した半導体部品は、主に3つある。1つは前述のMRAMで、SRAMの置き換えを狙ったものである。米Everspin Technologies社*2)の4Mビット品「MR2A16A」を使った。米Freescale Semiconductor社は、同社が2008年2月26日に発表したリリース中でMRAMを宇宙環境で利用するメリットについて、「MRAMを使えば、プログラム・データとFPGA設定データを単一のメモリーに格納できるので、データ保存に必要なチップが1つで済む。この結果、ボード面積を縮小できる」と説明した。
2つ目は、米Analog Devices社の多機能MEMSセンサー・モジュール「ADIS16355」である。3軸加速度センサーと3軸ジャイロ(角加速度)センサーが搭載してある。キャリブレーションやデジタル処理、電源管理といった機能も搭載しており、「これが宇宙環境で使えれば、小型衛星にとって非常に有益」(同氏)という品種である。3つ目は、米Intel社の「8051」マイコンとCAN(Controller Area Network)インターフェースをフリップ・チップ実装したモジュールである。これを4つ、プリント基板に搭載した。4つのモジュールを同時に稼働させて試験した。短期間の試験期間ではあったものの、以上の3つの半導体部品に発生したエラーは宇宙環境特有のものではないことを確認したという。
完成させた小型衛星が無事に宇宙に到達するには、打ち上げ時の衝撃や振動に耐える必要がある。「宇宙に到達するまでに、機械に対して激しい振動と衝撃が加わる。到達するまでが大変」(同氏)。振動に対する動作試験はJAXAが厳密に規定しており、筐体には当然のことながら振動対策が施されている。CAD(Computer Aided Design)で筐体の構造モデルを作成し、変形の具合や振動のモード(共振周波数)を計算機上で確認した。最終的に、JAXAが決める最低共振周波数の閾値を上回っていることを、実際の試験で確認した。最低共振周波数が低ければ、筐体の剛性が弱いことを意味する。「実際には、先に実験や試験を実施して、計算機シミュレーションは後回しということもあった」(同氏)。
東北大学の研究グループが開発した小型衛星は、2009年2月4日に突然制御できなくなってしまった。マストを伸ばしたときにシステムの電源電圧が一時的に低下し、これがロジック回路に何らかの悪影響を与えたのではないかと考えている。「宇宙では99%が成功したとしても、残り1%がちょっとしたきっかけで駄目になると、システム全体が動かなくなる。良好なデータを取得できることを確認した直後のことなので非常に残念」(同氏)。現在も日々の監視を続けている。
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