ダイヤモンド多結晶膜を形成したウエハーは既に市場に出回っており、GaN(窒化ガリウム)といった高性能材料との併用に向けて研究が進んでいる。しかし、SiC(炭化ケイ素)基板で素早く熱を放散できないのと同様に、同ウエハーも現時点では、潜在能力を発揮できるまでには至っていない。ただ、ダイヤモンド多結晶膜を形成したウエハーは、SOI(シリコンオンインシュレータ)ウエハーを上回る性能を有するため、SOIウエハーの代替として今後が期待されている。
高純度ダイヤモンドを使用したトランジスタはまだ実験段階にあるものの、既にNTTなどが高出力かつ高周波で動作する通信用ダイヤモンドトランジスタのデモを披露している。ダイヤモンドトランジスタはさらに、天候や気温などが悪条件であっても問題なく動作する自動車用の次世代衝突防止レーダーシステムや、量子コンピュータに用いる量子ビットストレージといった将来さらなる用途が見込まれる応用例に向けても、採用が検討されている。
Freeman氏によれば、「ダイヤモンドの採用は現在、極めて高価なダイヤモンド基板のコストを賄える軍需産業などごく一部の分野向けの、高温かつ高周波で使用されるコストの高いニッチな用途に限られている」という。
単結晶ダイヤモンドを使用した半導体の商用化には2つの障害がある。1つ目の障害はドーピングだ。絶縁体から半導体へ材料を変化させるには格子欠陥を導入しなければならないが、単結晶ダイヤモンドには格子欠陥を導入するのに十分な量のドーパントが存在しない。
米Advanced Diamond Technologies(ADT)で最高技術責任者(CTO: Chief Technology Officer)を務めるJohn Carlisle氏は、「Si半導体では、B(ホウ素)やP(リン)などのドーパント群を利用できる。これらのドーパントは、Siに注入すると全体としてある種の半導体特性を示す。さらに高温熱処理(アニーリング)時に格子損傷を修復する働きを持つ。Siはドーパント原子の周囲で自然に再結晶するということだ。ところが、ダイヤモンドでは再結晶が起こらない。そのためドーパントを注入して、ダイヤモンドの高温熱処理を試みた場合、ドープ領域はただのグラファイトや無定形炭素へと変化してしまう」と説明する。
もう1つの障害はスケーリングだ。単結晶ダイヤモンドをウエハー全体に成長させようとしても、幅38mm(1.5インチ)程度の大きさにとどまってしまう。一方、Siはウエハー規模で成長させると、幅200mm(8インチ)以上の完全な単層単結晶へと成長する。この点で、ダイヤモンドはSiに太刀打ちできない。
Carlisle氏は「単結晶ダイヤモンド膜を200mm(8インチ)のウエハー全体にわたって形成することは、いまだ非常に難しい」と話す。
ADTと米sp3が現在販売するダイヤモンドウエハーの大半は、ダイヤモンドの極めて固い性質が役立つMEMS用途に採用されている。さらに、SiCウエハーと同等程度の熱放出性能が要求される用途への導入も、格段に低コストで実現可能だ。sp3のプレジデントを務めるDwain Aidala氏は、「当社では、ダイヤモンドで被覆したウエハーを、SiCの約4分の1の価格で販売している」と明かす。
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