ADTとsp3は、多結晶ダイヤモンド膜をウエハー規模で成長させることによって、単結晶カーボン膜が直面するドーピングとスケーリングという2つの問題の回避に成功した。sp3が「微結晶ダイヤモンド」、ADTが「超ナノ結晶ダイヤモンド」(UNCD)とそれぞれ名付けた多結晶ダイヤモンド膜には、20〜30個の炭素原子から成る、直径5nmと小さい結晶(幅は炭素原子10個程度)が使用されている。
Carlisle氏は「ナノ結晶ダイヤモンドを使用することで、単結晶ダイヤモンドの欠点だったドーピングとスケーリングの問題を2つとも解決することができた。ナノ結晶ダイヤモンドもまだ完璧な材料とは言えないものの、単結晶ダイヤモンドの欠点を取り除いた上で、おおむね優れた特性を示すようにできたと考えている。具体的な事例を挙げると、当社の研究所では、300mm(12インチ)のウエハー上にナノ結晶ダイヤモンドを蒸着することに成功した。その結果、現在では、ダイヤモンド膜をCMOS半導体スタックのどこにでも挟み込める(インタリーブ)階層構造の形成が可能になった」と説明する。
ADTのUNCDは自然に絶縁状態となるが、N(窒素)によるドーピング処理を施すことで導電性を高めることができる。また、外来原子をカーボン結晶格子上ではなく、ナノ粒子間に挿入することで、結晶性カーボンがグラファイトへと変化するのを抑制できる。UNCD膜の導電率は、ドーパントの添加と蒸着プロセスの変更によって、8けた(1億倍)以上改善できる。
同社はまた、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)との契約の下、MEMS用途に向けたダイヤモンドの開発も進めている。同用途では、ダイヤモンドを採用することで、周波数性能をGHzレベルに拡張できるほか、長期耐久性も保証できるようになる。なお、Siを用いたMEMS素子の周波数性能は、MHzレベルにとどまっている。
ADT社のCarlisle氏は、「ダイヤモンドはMEMS用途に要求される特性を全て持ち合わせている。例えば、ダイヤモンドは非常に剛性が高いため、極めて高い周波数で共振できる。しかも表面が化学的に安定しているため、酸化の影響を受けない」と話す。
DARPAは2009年7月、ADTの超ナノ結晶プロセスでダイヤモンド膜を生成するHERMIT(Harsh Environment Robust MIcromechanical Technology)プログラムを評価した。過酷な環境に向けた研究開発である。HERMITプログラムは米Argonne National Laboratoryで完成を迎えたが、DARPAプログラムマネジャーを務めるAmit Lal氏は、同プログラムの実施に伴い3社に協力を求めた。その3社とは、ADTのダイヤモンドを利用してMEMS素子を作成した米Innovative Micro Technology(IMT)と、RFスイッチを設計した米MEMtronics(図2)、SOS(シリコンオンサファイア)ウエハー上にCMOS技術を用いたドライバ回路を製造した米Peregrine Semiconductorである。
DARPAに向けたRF位相シフターの開発に成功したことで手応えを感じたADTらは現在、CMOS上に形成したダイヤモンドを構成要素に含むMEMS素子を、一般消費者に向けた機器用RFモジュールとして利用できるよう、独自に開発を開始した。
Carlisle氏は、「われわれの目標は、複数の異なるRF発振器やフィルタ、スイッチをシングルチップソリューションとして統合し、スマートホンやスマートブックなどの携帯型無線端末機用に製品化することだ」と語った。現在は、「30社のサプライヤから個別に部品の供給を受けて製造しており」、同社の手法が優れていることを強調した。
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