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第9回 エミッタ接地回路のサプリメント 〜 エミッタ・フォロア 〜Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(3/3 ページ)

» 2009年10月29日 00時00分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]
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インピーダンス変換

 エミッタ・フォロアとは、その名が示すように「エミッタ(の電位)がフォロー(ついていく)」という回路です。何にフォローするかというと、ベースの電位に対してです。つまり、ベース電圧が上下すると、それにつられてエミッタ電圧も上下します。実際には、エミッタ電圧はベース電圧に対して0.75V(ベース-エミッタ間電圧Vbe)程度低い電圧を保ちながらフォローします。エミッタ・フォロアを使うメリットは、入力インピーダンス(Zin)が高く、出力インピーダンス(Zout)が低いことにあります。

 エミッタ・フォロアのZinとZoutを、算出してみましょう。まずZinは、トランジスタのベースから出力側をのぞいたときに見える抵抗値を計算すれば良いのです(図4)。これまで説明したように、ベース電流はコレクタ電流(≒エミッタ電流)の1/βなのでベースからエミッタを見るとインピーダンスはβ倍に見えます。図4(a)から分かるように、エミッタ抵抗Reと次段の入力インピーダンスZiが並列になっていて、それらとRVt(または、1/gm と表記)が直列接続された抵抗全体をβ倍したものが、Zinになります。

図4 図4 入力/出力インピーダンスをイメージする 入力インピーダンスはトランジスタのベースから出力側をのぞいたときに見える抵抗値(a)で、出力インピーダンスはトランジスタのエミッタから取った出力から入力側を見たときの抵抗値です。電流増幅率βの効果に気を付けて下さい。

 一方のZoutは、トランジスタのエミッタから取った出力から入力側を見たときの抵抗値を計算すればよいのです。エミッタ電流(≒コレクタ電流)はベース電流のβ倍なので、エミッタからベースを見ると、ベースの先に接続されている前段の出力インピーダンスZoは1/β倍に見えます。つまり、Zoを1/βにしてRVtを加えた抵抗と、エミッタ抵抗Reを並列にしたものがZoutです。従って、ZinとZoutは下記のようになります。

 どの程度の値になるのか、実際に計算してみましょう。エミッタ電流は、(2.4V−0.75V)/100Ω=16.5mAです。従って、RVt=1/gm=Vt/Ic≒Vt/Ie=26/16.5=1.575Ωとなります。なお、2.4Vはトランジスタのベース電圧(前段出力の直流成分)、0.75VはVbeで、26mVは熱電圧です。

 以上の情報を基に、(1)式からZinは4.702kΩ、(2)式からZoutは2.511Ωと計算できます。Zinはその前段(X1)の出力インピーダンスの100Ωより十分大きく、またZoutはその次段(X2)の入力インピーダンスの83.33Ωより十分小さくなることが確認できました。次回は、もう1つのサプリメント回路「ベース接地回路」を紹介します。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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