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複数の無線システムに適する受信回路構成、ダイレクト・コンバージョン方式を評価無線通信技術 ダイレクトコンバージョン(1/2 ページ)

マルチスタンダード/マルチバンド対応の無線通信システムに適した受信回路構成が「ダイレクト・コンバージョン方式」だ。

» 2009年11月13日 00時00分 公開
[Rakesh Soni, Eric Newman,Analog Devices]

 複数の周波数帯域に対応し、導入後に仕様を変更可能な「フィールド・プログラム」対応の無線通信システムに対するニーズは高い。1つの携帯電話機で、複数の規格や周波数帯域に対応する、いわゆる「マルチスタンダード/マルチバンド化」が進むにつれて、その傾向はますます強まっている。

 このようなマルチスタンダード/マルチバンド対応の無線通信システムに適した受信回路構成が「ダイレクト・コンバージョン方式」だ。一般に、アンテナで受信した高周波(RF)信号は、周波数が低いベースバンド(BB)信号に変換(「ダウン・コンバート」と呼ぶ)した上で、情報を抽出する復調処理を施す。高周波信号からベースバンド信号に変換する方法にはいくつかあり、その1つがダイレクト・コンバージョン方式である(図1)。これまで広く使われてきた「スーパー・ヘテロダイン」と呼ぶ方式に比べて、回路構成がシンプルであるために、コストや実装面積の観点から優位となる。

図 図1 ダイレクト・コンバージョン方式対応の広帯域無線受信回路 一般的な受信回路の構成である。シンプルな構成であるため柔軟性が高い。

 第3世代携帯電話通信方式(W-CDMA)はもちろんのこと、最新の高速無線通信方式である「WiMAX」や、第4世代の通信方式を利用する無線基地局や携帯電話機に、ダイレクト・コンバージョン方式を採用する利点は多い。今後重要度を増すダイレクト・コンバージョン方式に焦点を当て、本方式を採用した無線受信回路を評価するために重要な指標を以下に説明しよう。

中間周波数段が不要

 ダイレクト・コンバージョン方式は、スーパー・ヘテロダイン方式の代替技術として1932年に開発された。アンテナで受信した高周波信号を、中間周波数(IF)を介さずに、ベースバンド信号に直接変換する受信回路構成を採る。

 中間周波数信号に一度変換した後にベースバンド信号に変換するスーパー・ヘテロダイン方式に比べて、「IF段」と呼ぶ、中間周波数に変換するための回路ブロックが不要になる。異なる周波数帯を利用する場合には、周波数帯ごとにIF段が必要なので、IF段を不要にできる利点は大きい。回路規模や部品コストの削減につながる。受信回路の構成が比較的シンプルになるため、異なる無線通信規格に対する柔軟度も高い。

 数多くの利点があるものの、ダイレクト・コンバージョン方式には、以下に説明するような技術的な課題があり、実装は困難とされてきた。

 一般に、高周波信号を中間周波数信号やベースバンド信号に変換するには、高周波信号に局部発信器(ローカル・オシレータ)で発生させた局部発振信号(周波数はfLO)を混合して、周波数を下げる。すなわち、周波数がfRFの高周波信号は、fRF+fLOとfRF−fLOの成分に分離されるわけだ。

 このとき、高周波信号からベースバンド信号に直接変換するダイレクト・コンバージョン方式では、高周波信号と同じ周波数の局部発振信号を混合する。この高周波の局部発振信号が悪さを引き起こす。それは、局部発振信号が低雑音アンプ(LNA)などほかの回路に混入してしまう「LOリーク」が発生する。また、このLOリークが原因でミキサーの出力には、直流信号が重畳してしまう。(これを「DCオフセット」と呼ぶ。)などである。このほか、「歪み特性」が悪いことも課題だった。

 しかし、最近になって、高周波回路の集積技術の進展を背景に、これらの技術課題は解決されつつある。

シンプルな回路構成

 まず、ダイレクト・コンバージョン方式を採用した広帯域無線受信回路の全体像を把握するために、アンテナが受信した入力した高周波信号の処理の流れを順を追って説明する。

 受信回路の信号経路は、デュプレクサのアンテナ接続部から始まる。デュプレクサは、受信回路と送信回路でアンテナを共通化するための部品で、W-CDMAといった周波数分割複信(FDD)技術を使う無線通信システムや、WiMAXの一部の仕様で広く使われている。それぞれ異なる周波数帯域の送信信号と受信信号を同時にフィルタリングすることで、狙った周波数帯域以外の不要信号が放射されてしまうのを防いだり、送信回路からの不要信号が受信回路に回り込むのを抑制したりする。

 デュプレクサには、いくつかの低雑音アンプ(LNA)回路を接続し、さらにその後段には、帯域選択可能なフィルタ回路や、対象となる周波数範囲に対応したマッチング回路を置く。LNA回路にチューニング回路を外付けすることで、周波数特性を向上させている。極めて広い周波数帯域に対応する必要がある場合には、特定の狭帯域に最適化したアンテナ回路とLNA回路を複数用意しておき、スイッチ・マトリクスを利用して切り替える手法が採られることもある。

 LNA回路の後段で、高周波信号はベースバンド信号にダウン・コンバートされる。ダウン・コンバート処理を担当するのが「I/Q復調器」である。I/Q復調器はミキサー回路や移相器などで構成し、ミキサー回路には前述のように、高周波信号と同じ周波数の局部発振信号を入力する。これによって、I信号とQ信号に分離したベースバンド信号が得られる。ミキサー回路の出力には、fRF+fLOとfRF−fLOの2つの成分が含まれるものの、和の成分は低域通過フィルタ回路で除去し、差の成分のみを通過させる。この差の成分が、所望のベースバンド・エンベローブである。

 図1を見ると、I信号とQ信号に分離したベースバンド信号を可変利得アンプ(VGA)で増幅している。ベースバンド信号をVGAでスケーリングすると便利なことが多い。VGAによって、I信号とQ信号をアナログ-デジタル(A-D)変換するときに適したレベルに調整できる。 また、I信号とQ信号は、A-D変換器に入力する前にアンチエイリアス・フィルタで処理する。一般にA-D変換器の前にフィルタ処理を施すことで、高周波数の雑音成分やほかの回路からのリーク成分が、信号周波数帯域に混入しないようにできる。

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