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» 2009年11月13日 00時00分 公開

複数の無線システムに適する受信回路構成、ダイレクト・コンバージョン方式を評価無線通信技術 ダイレクトコンバージョン(2/2 ページ)

[Rakesh Soni, Eric Newman,Analog Devices]
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非線形動作を評価

 図1に示したダイレクト・コンバージョン方式の無線受信回路の特性を紹介する。上記に説明した無線受信回路を評価する上で重要な指標はいくつかある。例えば、「瞬時ダイナミック・レンジ(IDR:Instantaneous Dynamic Range)」や、スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ(SFDR:Spurious Free Dynamic Range)、変調誤差比(MER:Modulation Error Ratio)などである。

 瞬時ダイナミック・レンジは、所望の受信波と隣接波とのレベルの差で、値が大きいほど高性能である。マルチキャリア環境で動作させる無線受信回路では、重要な指標となる。マルチキャリア環境では、所望の受信波に対して、極めて大きな電力レベルの干渉信号が隣接することがあるからだ。また、SFDRはキャリア周波数のRMS振幅に対して、その次に大きな高調波歪み成分のRMS振幅に対する比率である。SFDRを評価することで、無線システムの設計者は受信回路の非線形動作を正確に把握できる。

 一般に、単一周波数のシングル・トーンや、2つの周波数成分が含まれたツー・トーンの干渉信号を使って、無線受信回路の耐障害性能を試験する。ツー・トーンの干渉信号を使って所望の信号を妨害した際の非線形動作を調査すれば、受信回路のダイナミック・レンジの定量化とモデル化や、「インターセプト・ポイント」と呼ぶ歪み性能の指標の評価に役立つ。

 図2に、f1とf2という周波数が異なる2つのCW(無変調の連続波)干渉信号を入力した場合の受信回路の出力スペクトルを示した。図2に示したテスト・ケースでの入力レベルは−30dBmと大きい。これは、第3世代または第4世代の携帯電話通信システムで要求される標準的なブロック・テストの条件に比べて、はるかに厳しい悲観的なブロック条件である。

図 図2 ツー・トーン干渉信号入力時の出力周波数特性 周波数がf1とf2の2つのCW(無変調の連続波)干渉信号を入力したときに発生した高調波成分を示した。

 ベースバンド信号の周波数付近でサンプリングする場合、大きな干渉信号を入力した条件では、2次や3次、4次、さらには5次および7次といった、受信回路の非線形性に起因した高調波歪みが性能を落とすことがある。このような高調波歪みが所望の信号を劣化させないようにするには、復調器の非線形性を極力抑えなければならない。

 このほか図2で3次の高調波成分が基本波入力トーン(周波数がf1およびf2)に近接していることに注目してほしい。これは、近接の干渉信号が所望の信号の周波数帯域に含まれるひずみ(相互変調積)成分を生成する可能性を示している。また、周波数がf1とf2の2つの干渉トーンの差の周波数成分(f2−f1成分)は、受信回路の2次の非線形性に起因したもので、ベースバンド信号の周波数帯域に含まれてしまうこともあるので注意が必要だ。

 当社(米Analog Devices社)が提供しているオンラインの高周波回路シミュレータ「ADIsimRF」を使って、当社の無線関連の半導体部品で構成した受信回路をさまざまな条件下で評価してみた。当社の無線チップを採用した例では、W-CDMA規格で規定されたシングルおよびツー・トーンの干渉信号を付加したときに、雑音指数(NF)が2dB未満で、受信感度の劣化が1dB未満だった。高感度の受信回路を構成できたと言える。

WiMAXに対する変調誤差比

 無線通信システムを評価する上で重要な指標には、瞬時ダイナミック・レンジやSFDRのほか、変調誤差比(MER)もある。

 変調誤差比は、デジタルの無線通信システムの送信回路または受信回路の変調精度を定量化した指標である。完全な線型性を持ち、雑音が無い無線通信システムで受信したデジタル信号は、すべてのI信号とQ信号が理想的なコンスタレーション(変調シンボルの遷移をグラフ表示したもの)を示す。

 しかし、無線通信システムは、振幅や位相の不平衡や雑音成分があるため、計測した実際の変調シンボルは理想的な位置からずれることになる。このずれ具合を表したものが変調誤差比で、小さければ小さいほど良い。

図 図3 WiMAX信号に対する変調誤差比(MER)  入力信号のパワーが高い領域と小さい領域ではMERが大きくなってしまう。
図 図4 W-CDMA信号に対する変調誤差比(MER) ダイレクト・コンバージョン方式を採用した受信回路にシングル・トーンやツー・トーンの妨害波を入れたときにも変調誤差比は大きく変わらなかった。青の実線が妨害波を入れない場合、赤の破線がシングル・トーンの妨害波を入れた場合、緑の実線は、ダイレクト・コンバージョン方式ではなく、「Low-IF」と呼ぶ従来方式を採用した場合。

 図3図4に、ダイレクト・コンバージョン方式採用の受信回路に入力した信号の、パワー変化に対する変調誤差比の推移を示す。図3は周波数帯域が10MHzのWiMAX信号、図4はW-CDMA信号に対する結果である。一般に、受信回路は入力した信号のパワーに対して3つの異なる挙動を示す。まず、入力信号のパワーが非常に大きい領域では、受信回路の非線形性に起因するひずみ成分によって、変調誤差比は大きくなる。次に、入力信号のパワーが小さい領域でも、雑音成分の影響が相対的に大きくなるため、入力信号レベルが低下するにつれて、変調誤差比が大きくなってしまう。入力信号のパワーが大きくも小さくもない適切な領域では、受信回路は線型に動作して、MERは最適なレベルに到達する。このとき変調誤差比は、I/Q復調器の直交精度やフィルタ回路、増幅回路の性能に依存する。

LOリークやDCオフセットに注意

 ほかにも注意すべき事項はいくつかある。例えば、受信回路の各種特性を向上させるには、局部発振信号のリークや、このリークに起因したDCオフセットの発生を防ぐ必要がある。局部発振信号のリークは、高周波信号の入力ポートから混入すると、受信回路に戻ってきてしまうことになる。これによって、局部発振信号の形が矩形波のようになってしまい、通常はきわめて高い周波数の第2次高調波が生成される。DCオフセットは、ベースバンド信号の周波数帯域内に含まれる干渉信号と見なせる。受信回路にはDCオフセットの補正処理が求められることが多い。

 I信号とQ信号の間の振幅および位相のミスマッチも防ぐ必要がある。理想的なI/Q復調器でI信号とQ信号に分離したベースバンド信号は、それぞれの信号が90度ずれた位相関係にあるものの、これが変化してしまうとSN比が低下してしまう。

 最新の高周波回路の集積技術によって、ダイレクト・コンバージョン方式を採用した無線通信システムは、幅広い周波数特性と高い瞬時ダイナミック・レンジが得られるようになった。この方式は、複数の携帯電話通信方式に対応するようフィールド・プログラム可能な無線基地局の実現に向けて、数多くの利点がある。無線通信システムの高次の非線形動作を配慮することで、これまで課題とされていたダイレクト・コンバージョン方式の課題は回避することができるだろう。

Rakesh Soni氏は、米Analog Devices社のRF/ネットワーキング・コンポーネンツ・グループに所属するRFアプリケーション・エンジニアである。前職は米Teradyne社のRF/ワイヤレス・アプリケーション・エンジニア。ジョージア工科大学で電気工学の学士号と修士号を取得している。

Eric Newman氏は、米Analog Devices社のRF/ネットワーキング・コンポーネンツ・グループに所属するアプリケーション・システム・エンジニアである。前職は、米Innovative Imaging Systems社でハードウェア設計者。マサチューセッツ大学ローウェル校の無線通信専攻で理学修士号を取得した。

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