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番外編 基板から不可解な音が聞こえる、コンデンサが震えていた理由は…Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/3 ページ)

» 2010年10月28日 00時00分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]

コンデンサがスピーカーに!

 温度の制御回路が発振したことも不思議でしたが、音が出てしまう原因を解明できていません。そこでまず、音が出てしまう理由を考えました。

 皆さんは、圧電素子をご存じでしょうか。外部から圧力を掛けると起電力が発生する素子です。身近なものでは、100円のライターにも使われています。カチっと押すと、電池も無いのに火花が出るのは、圧電素子のおかげです。

 この圧電素子は強誘電体を利用しており、起電力が発生するのとは逆の現象もあります。つまり、電圧を印加すると圧力が発生し、素子が変形するという現象です。実は、セラミックコンデンサの多くには強誘電体が使われています。ですので、電圧をかけるとわずかですが寸法が変化します。

 半導体レーザーの温度制御には、回路の動作をゆっくりにするため、静電容量が大きなコンデンサが必要でした。コンデンサにはいくつかの種類があります。ある理由からタンタルコンデンサを使用しなかったため、キャラメルのように大きなセラミックコンデンサを使いました。

 温度制御回路が発振すると、このセラミックコンデンサに大電圧が掛かって振動していたのです。この振動が原因でコンデンサとプリント基板がスピーカーのように動作して、大きな音が出ていました。

位相余裕の状況に注目

 大きな音が発生した原因は解明できましたが、謎はまだ残っています。次に、温度の制御回路が発振した理由を解明することにしました。

 半導体レーザーの温度制御回路によって調整する温度そのものの変化は、電子回路の動作にくらべるとはるかにゆっくりです。このため、温度を変化させる回路は、電子回路の動作に影響を与えないはずです。回路の設計書をひもといて、どのように時定数を設定して位相余裕を確保したかを、再度確認することにしました(図1)。

図1 図1 利得特性と位相特性の設定値 一番遅い時定数は、レーザーの温度が変化する時定数で、周波数変化に対して位相は1次傾斜で下がっています。利得が十分0dB 以下になったところで、電子回路の時定数が効いてきて、2次傾斜になっていますので、利得が0dBを越えるときに位相は反転していません。位相余裕は、十分に確保できています。

 一番遅い時定数は、レーザーの温度が変化する時定数で、周波数変化に対して位相は1次傾斜で下がっています。利得が十分0dB以下になったところで、電子回路の時定数が効いてきて、2次傾斜になっています。つまり、利得が0dBを越えるときに位相は反転していません。どこにも問題はないはずです(位相余裕については、第19回「差動対がオペアンプに変身(4)〜オープン特性を1次傾斜へ〜」を参照して下さい)。

 電子回路の要因で、位相特性が2次傾斜になるのは位相余裕の観点から不利なので、電子回路の時定数を決めているセラミックコンデンサを取り外してみました。コンデンサが無くなったので、音は出なくなりましたが、まだ発振は止まりません。温度を変化させる回路の位相特性の1次傾斜に相当する時定数だけしか残っていないはずです。それなのにどうして発振してしまうのか…。どう考えても分かりません。

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