現在、主な開発目標となっているのが、取り出せるエネルギー量が大きく、小型・軽量な二次電池である。目標を満たすには重量エネルギー密度(kWh/kg)や体積エネルギー密度(kWh/l)を高めればよい。
二次電池全体のエネルギー密度を高めるには、放電容量(mAh/g)の大きな正極材料や負極材料を開発することが早道だ。電極の体積を一定に保ったとき、Li+(リチウムイオン)の出入り(インターカレーション)する量の大小が、電池の容量を決めるからだ。
現在一般的な正極材料はリチウム金属酸化物だ。Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)をある比率で含む三元系の材料LiNixMnyCo1-x-yO2が有望だとされており、理論容量は275mAh/gである。CoやMn、Ni単独ではこの容量よりも少なくなる。
ある特性を満たすために以上の3つの元素の比率を変えることや、3元素では達成できない特性を満たすために別の元素を添加する研究が進んでいる。例えば材料コストを抑えるにはCoを減らす、安全性を確保するためにMnの比率を高めるといった手法である。
負極材料の開発は正極材料と大きく異なる。リチウムイオン二次電池の負極材料は、ほぼ全てグラファイトである。グラファイトがもつ層状の構造中に容易にLi+を吸蔵でき、安価で安全な材料だからだ。
現在の開発課題は、グラファイトを大きく超える放電容量を備えた負極材料の実用化である。材料自体はすでに見つかっており、Sn(スズ)やSi(シリコン)、S(硫黄)や硫化物などが候補に挙がっている。特にSiは放電容量が4200mAh/gと高く、グラファイトの10倍以上に達する。グラファイトでは6つのC(炭素)原子当たり1個のLi+を吸蔵するのに対し、Siでは原子1個当たり4.4個のLi+を吸蔵できるためだ。
Siの課題はサイクル寿命が短いことだ。電池を充電すると、Si負極がLi+を吸蔵する。そのときSi結晶の体積が最大4倍程度に増えてしまう。Siには柔軟性がないため、結晶構造が破壊されて元に戻らない。
これを抑えるために、各社がさまざまな手法を開発している。小型のSi結晶を用いて膨張の応力を小さくする、他の材料を使って膨張を抑えるといった手法である。
例えば、三井金属鉱業はSiをCu(銅)のネットワーク構造で囲み、日立マクセルは「ナノシリコン複合体」とグラファイトの混合物を用いた(図1)。NECは平面状のラミネートセルでSiO(酸化ケイ素)を用いた。
日立マクセルは2010年6月にナノシリコン複合体を採用したスマートフォン用の角形の二次電池の出荷を開始した。
ナノメートルサイズのSi粒子をアモルファス構造のSiO中に分散することで、SiOがSiの膨張を緩和する仕組みだ。ナノシリコン複合体をカーボンで被覆して電気伝導度を高め、さらにグラファイト粒子と混合した。
以上の構造を採ることで、サイクル寿命を従来のリチウムイオン二次電池と同等に保ちながら、グラファイト負極と比較して放電容量を20%増やすことができたという。負荷が高い場合、充放電に要する時間をグラファイト負極と比較して30%短縮できたことも特長である。出力電圧の低下や熱安定性の低下も見られないとした。
NECとNECエナジーデバイスは、日産自動車との合弁会社であるオートモーティブエナジーサプライを通じて、日産自動車に平面状のラミネートリチウムイオン二次電池を供給している。NECとNECエナジーデバイスは、第51回電池討論会(2010年11月9日〜11日に名古屋で開催)で、ラミネートリチウムイオン二次電池の負極材料をSiOに変えた試作品について発表した。重量エネルギー密度99Wh/kg、500サイクル後の容量維持率52%を達成したという。
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