アナログIC大手のリニアテクノロジーが、抜本的な事業再編を世界規模で推進している。
アナログIC大手のリニアテクノロジーが、抜本的な事業再編を世界規模で推進している。同社の事業領域は「携帯電話機/民生機器」、「コンピュータ/通信」、「産業/自動車/軍需航空宇宙」の3つに分かれるが、2010年度までの5年間に、「産業/自動車/軍需航空宇宙」の売上比率を42%から55%へ高めた一方で、価格競争の激しい「携帯電話機/民生機器」の売り上げを28%から9%へ一気に引き下げた(図1)。2011年度(2010年7月〜2011年6月)には、さらに両分野の売上比率の差は拡大する見込みだ。
CEOのLothar Maier氏(図2)は、思い切った事業再編の理由をこう説明する。「携帯電話機/民生機器の分野では、われわれが他社に先行して高性能な製品を提供し続けても、常に価格の引き下げを求められてしまう。これでは事業を継続的に成り立たせることが難しい。そうした分野の事業は縮小し、当社のアナログICの性能と品質を高く評価してくれる産業/計測分野と自動車の領域へ集中する戦略を進めることしか道はなかった」。
この事業再編により、リニア社の売上高は2005年度までの上昇傾向が止まり、2006年度以降は横バイの状態が続いた(図3)。さらに2009年度にはリーマンショックの影響で大きく落ち込んだが、2010年度には回復。直近の四半期(2010年7月〜9月)は過去最高の売上高を記録し、同業のナショナル セミコンダクターと肩を並べるレベルまで拡大した(図4)。
創業者で現在はExecutive ChairmanのRobert Swanson氏は2005年当時のことを振り返り、「成長市場の携帯電話機/民生機器の事業を縮小することに関して、アナリストからはクレイジーだと批判された」と語る。実際には産業/計測分野の比率を高めた結果、2009年度の売上減少時を含めて、営業利益率では常に同業他社を大きく上回ることができたという。
リニア社の分野別の売上比率を詳しく見てみると、2005年度は「通信」が35%で最大だったが、2010年度は「産業/計測」が36%で逆転している(図5)。過去5年間で「通信」の比率が11ポイントも減少したのに対して、「産業/計測」は4ポイント増加した。この「産業/計測」には、市場が拡大中のエネルギーハーベスティング(環境発電)向けの製品も含まれており、2011年度には38%まで高める計画だ。同じく注力分野の「自動車」は5年間で5%から11%へ拡大し、2011年度には12%まで増えるとみている。
携帯電話機から自動車分野への事業再編を実施した象徴的な例が日本市場である。この5年間で、日本における自動車向けの売上比率はわずか2%の状態から29%まで伸びており、さらに2011年度には35%に達する見通しである。逆に携帯電話機向けの売上比率はPC向けと合わせても、5年間で19%から8%まで減少した。
「日本の自動車メーカーは競争力の高い製品を開発するために、当社のアナログ製品の採用を積極的に進めてくれている。たとえばハイブリッド車や電気自動車向けのバッテリマネジメントシステムは、日本のほかヨーロッパや韓国の自動車メーカーでも採用が広がっており、2011年から搭載車が数多く市場に出てくるだろう」(Maier氏)。ヨーロッパと韓国でも自動車分野の売上比率は高まっており、2011年度にはそれぞれ22%(ヨーロッパ)と25%(韓国)を占めるまでに成長する。
ハイブリッド車や電気自動車はガソリンエンジン車と比べて生産台数はまだ少ないものの、1台当たりに搭載される同社のアナログ製品の単価はガソリンエンジン車の10倍以上になるため、今後の自動車分野の売上拡大を加速する期待がかけられている。
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