富士通セミコンダクターが主に強調するのは、周辺回路の独自性だ。同社は、新製品に搭載した周辺回路の特徴を幾つか挙げるが、このうち特に訴求するのが、「独自の高速・高信頼の組み込みフラッシュメモリ技術」(同社)である。NOR型を採用したフラッシュメモリで、書き込み/消去回数は10万回、データ保持時間は20年間と高い信頼性を備える。これまで、独自コアを採用したマイコンに長年使ってきた実績ある組み込みフラッシュメモリ技術をARMマイコンにも展開した。
高速・高精度のA-D変換回路を搭載したことも特徴に挙げる。今回発表した新製品に載せたA-D変換回路の分解能は12ビット、変換時間は1.0μsである。今後さらに分解能を高める計画で、分解能が16ビット、変換時間が1.0μsのA-D変換回路を載せることを検討している。
Cortex-M3を採用した32ビット汎用マイコンのFM3ファミリの第1弾として、合計44製品を一挙に市場に投入する。44製品の内訳は、FA機器のサーボ制御やインバータ制御に最適化した、動作周波数80MHzの「ハイパフォーマンス製品群」が36品種。白物家電をはじめ、デジタル民生機器、OA機器に向けた、動作周波数が40MHzの「ベーシック製品群」が8品種である。2011年1月から順次、量産出荷を始める。
第2弾として、消費電力を低く抑えた製品群(「ローパワーライン」と呼ぶ)の開発を進めており、2011年第1四半期(4月〜6月)までにサンプル出荷を開始する予定である。電池駆動のモバイル機器や、消費電力削減の要望が強い宅内機器などを対象にした品種だ。「幅広い市場に向け、全方位で対応を進めていく」(同社)。2011年には、動作周波数を144MHzに高めた品種も製品化する予定である。
同社はこれまで、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やASSP(Application Specific Standard Product)の領域ではアームのプロセッサコアを採用した品種を用意していたが、汎用マイコンの領域では30年近く独自コアを採用した品種を製品化していた。
ARMコアを採用した背景を、同社は、「独自のプロセッサコアは、もはや汎用マイコンの差別化要因にはならない」という表現で説明した。
かつては、独自コアの開発をいかに進めるかが、マイコンの差別化ポイントだった。ところが、同社が「グローバルスタンダードコア」と表現するように、アームのプロセッサコアが全世界で広く使われるようになったことを背景に、独自コアを使い続けることが逆に、世界での市場シェアを伸ばす上で足かせになってきたのだという。「今後、マイコンの差別化ポイントは周辺回路の種類や性能になっていくだろう」(同社)。
STマイクロエレクトロニクスは、「業界でトップクラスの製品群を、継続的に提供すること」(同社)を強調する。
2010年11月に新たに発表したSTM32 F-2シリーズに、Cortex-M3を採用した既存シリーズである「STM32 L-2シリーズ」と「STM32 F-1シリーズ」を合計すると、品種数は180を超える。これに加えて、8ビットマイコンの置き換えを狙ったCortex-M0採用マイコンと、Cortex-M3マイコンの上位互換版に位置付けるCortex-M4採用マイコンのサンプル出荷を、2011年中ごろに開始し、量産出荷を2011年末に始める計画である。
同社は、日本国内のマイコン市場の課題をいくつか挙げた。例えば、互換性のないマイコンコアが乱立していることや、8ビットまたは16ビット、32ビットというように、市場がいくつかのセグメントに分割されており、セグメント間で開発済みのプログラムコードの互換性が限定されていることなどである(別掲記事「マイコンコアの互換性に注力するルネサス」を参照)。
Cortex-Mシリーズを採用したマイコンは、プログラムコードに互換性がある。従って、同一の開発環境を使え、開発済みプログラムコードの再利用が可能で、「スケーラブルな設計」を実現できると説明した。
同社のCortex-Mシリーズ採用マイコンは、端子配置にも互換性を持たせている。このため、同一のアプリケーションでも、例えば、ハイエンドやローエンドといったラインナップや出荷先地域ごとに、採用するマイコンの品種を変えるとき、マイコンを置き換える自由度が高いという。
STM32 F2シリーズの特徴は、「クラス最高の性能を有すること」(同社)である。具体的には、処理性能は150DMIPS(動作周波数が最大120MHzのとき)、90nm世代の製造プロセスのフラッシュメモリを搭載した。容量は、最大1Mバイトである。
「アダプティブ・リアルタイム・メモリ・アクセラレータ」と呼ぶ技術を使うことで、動作周波数が120MHzで動作時にも、待機時間無しにコードを実行できるようにした。STM32 F-2シリーズは、すでにサンプル出荷を始めており、2011年第1四半期(1月〜3月)中に量産を始める。
ET2010では、前出の2社のほか、NXPセミコンダクターズやテキサス・インスツルメンツ、東芝マイクロエレクトロニクスが、ARMコアを採用した汎用マイコンを出展していた。
NXPセミコンダクターズは、2011年第2四半期に量産開始を予定している32ビットマイコンの新品種「LPC4300」を紹介した(図3)。LPC4300は、Cortex-M4とCortex-M0の2つを集積したデュアルコアのマイコンである。浮動小数点演算や積和演算処理に対応したCortex-M4コアで、オーディオ処理や映像処理、モーター制御などを担当させ、Cortex-M0コアでは周辺回路を制御するといった使い分けを想定している。会場では、LPC4300をオーディオ処理に使ったデモを見せていた。Cortex-M4コアを使ってオーディオ信号をイコライザ処理し、Cortex-M0コアではI2Sインターフェイスの制御を担当させる。イコライザ処理を変えたとき、遅延なく音質が変わることを、アピールしていた。
テキサス・インスツルメンツは、同社のマイコン製品群を使ったデモや評価基板を数多く展示した。同社は、32ビットマイコンの製品群として、Cortex-M3を採用した「Stellaris」シリーズを提供し、16ビットマイコンには、消費電力の低さを特徴とする独自コアの「MSP430」シリーズを製品化している。Stellarisシリーズは、「豊富な品ぞろえを用意していることや、イーサネットPHY回路を搭載した品種を業界で唯一製品化していることが特徴」(同社)である。今後も拡充を続け、2011年には、Cortex-M4を採用したマイコン製品群を製品化する予定である。
独自コアのMSP430シリーズは、消費電力の低さを売りに、最近ではエネルギーハーベストやスマートメーター、宅内電力管理システム(HEMS)へと用途を広げている。「MSP430シリーズという、低消費マイコンの確固たる製品群を有しているため、Cortex-M0を採用したマイコンを製品化する計画はない」(同社)という。
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