限られた電力を有効に使うには、電力変換の効率を高める必要がある。電気自動車やスマートグリッド、家庭内の空調など求められる場面は多い。GaN(窒化ガリウム)パワー半導体を利用すれば、小型で高効率な変換器が手に入る。
発電所の事故による電力供給不足、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの興隆、2011年以降急速に立ち上がる電気自動車(EV)、ITと結びついた将来の電力網であるスマートグリッド―。これらが生み出すさまざまな技術課題の解決には、電力の効率的な変換が前提となる。
電力不足は日本国内に限った話ではない。数千の発電事業者が競い合う北米、電力需要が急速に高まっている中国など世界各地で供給が需要に追い付いていない。発電能力を高める努力は不可欠だが、電力を消費する機器のエネルギー利用効率を高める必要がある。例えば、日本の家庭の消費電力の1/4を占めるのは空調だ。空調機器は必ずモーターを使う。モーター用の電源回路では電力変換効率の向上が急務だ。
再生可能エネルギーは欧州を中心に利用が伸びている。スペインでは2011年3月に風力発電が電力源として初めて首位に立ったほどだ(図1)。日本、米国、欧州のいずれも将来の再生可能エネルギーの比率を総発電能力の1割以上に高めようとしていたが、今後、この比率はさらに高まっていくだろう。再生可能エネルギーは出力が必ずしも安定しないため、既存の発電方式よりも電力変換が活躍する場面が多くなる。
EVは二次電池に蓄えた電力を用いて走行する。ガソリンを使う自動車と比べて走行距離が短く、これを改善するには、二次電池の性能改善や車体の力学的な抵抗の低減の他、電力の変換効率向上が不可欠だ。走行距離以外にも変換効率が顔を出す。例えば、家庭向けの電力管理システムであるHEMS(Home Energy Management System)を導入し、夜間にEVに電力を貯め、地域の消費電力がピークに達したとき、必要に応じてEVから引き出すシステムの開発が進んでいる(図2)。交流から直流へ、直流から交流へ、効率よく電力を変換できなければ、このようなシステムはそもそも成立しない。
交流から直流へ電力を変換するコンバータ、その逆に変換するインバータは、いずれもパワー半導体を組み合わせて設計する。EVでは走行用のモーターに三相交流同期モーターを使うことが多く、インバータ、コンバータは必要不可欠だ。
インバータやコンバータの動作周波数や電力変換容量(kVA)は用途によって異なる。それに応じてどのようなパワー半導体を利用するかが定まる。電力変換容量が10kVAまではMOSFET、1000kVA以下はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が多用される。いずれもSi(シリコン)パワー半導体だ。
Siパワー半導体を利用しにくいのは動作周波数が大きい領域だ。電力変換容量が高まるほど、適応可能な動作周波数が下がってしまう。例えばEVなどで利用する100kVAとなると、動作周波数を100kHz以上に高めることはできなくなる。この領域ではSiを使ったIGBTの性能改善はほぼ限界に達している。
さまざまな機器にインバータ、コンバータを利用する際、インバータ、コンバータの小型化が求められる。動作周波数を高め、高速にスイッチングするとインンダクタやコンデンサなどの周辺部品が小さくなり、電源回路が小型化できる。しかしながら、スイッチング損失が増えるため、効率は低下してしまう。ソフトスイッチングなどの方式を導入することで、スイッチング損失を低減することはできるものの、Siパワー半導体では改善が難しいところまで来ている。
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