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パワー半導体が変える電力の未来、GaNが先導かパワー半導体 GaNデバイス(2/2 ページ)

» 2011年04月12日 19時12分 公開
[畑陽一郎,@IT MONOist]
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なぜGaNなのか

 パワー半導体で重要視される性質は、材料のバンドギャップや電子移動度、絶縁破壊電界と熱伝導率、飽和ドリフト速度だ。いずれも物質ごとに固有の特性値であり、Siを使う限り限界を乗り越えることはできない。

 パワー半導体としての性能に影響する物性がSiよりも優れた半導体がある。GaN(窒化ガリウム)とSiC(炭化ケイ素)だ。どちらもSiパワー半導体よりもスイッチング損失が低くなる他、絶縁破壊電界が大きいため、半導体を薄型化でき、オン抵抗も小さくなる。スイッチング損失だけでなく、導通損失も下がり、変換効率が高まる。高速スイッチング動作時でもSiより損失が低くなることがメリットだ。

 それではGaNとSiCのどちらが有望なのだろうか。先ほど挙げたさまざまな物性値を比較すると、熱伝導率以外、GaNがいずれも10%程度勝っている。ただし、熱伝導率ではSiCがGaNと比較して約3倍高い。物性値だけを比較すれば、GaNは電力変換容量が小さく、動作周波数が高い領域で最大の能力を発揮することが予想できる。Si MOSFETやSi IGBTの限界を超えた領域に広く使え、SiCよりも特性がよくなる。ただし、高温動作環境では、SiCの方が有利になる。

 パワー半導体の製品化ではSiCが先導している。2010年には国内メーカー各社がSiCショットキバリアダイオード(SBD)を製品化しており、2010年末にはロームがSiCトランジスタ(DMOSFET)のカスタム品の量産を開始している。一方、GaNパワー半導体は2011年以降に製品化が進む予定だ。

 材料コストではどうだろうか。ウエハーの大型化でもSiCが先行している。SiC、GaNともSiのように融液からバルク単結晶を直接引き上げる手法(チョクラルスキー法)は利用できない。このため、2011年前半では、SiCでは4〜6インチ、GaNでは2〜4インチが量産ウエハーの上限だ。ただし、今後のウエハー大型化を見据えると、GaNの方が有望だ。なぜか。

 「SiCウエハーの大型化には取り組んでいるが、SiCパワー半導体市場は立ち上がったばかりであり、4インチであっても、1000枚/月を要求する顧客が存在しない」(SiCウエハーメーカー)。SiCパワー半導体が普及すれば大型化で先行したウエハーメーカーが有利になるが、先走っても投資が回収できない可能性がある。ニワトリとタマゴの議論だ。

 GaNウエハーには力強いアプリケーションがある。GaN半導体が発光することで光る白色LED照明だ。各国政府は省エネルギー推進のため、白熱電球のLED化を推進し、LEDメーカー、LED照明器具メーカーが応えている。パナソニック電工は2010年の国内メーカーが出荷するLED電球の個数を1100万個と推定し、今後も年300%以上の成長が望めるという。

 パワー半導体用とLED照明用のウエハーに求められる品質は必ずしも同じではないが、バルク結晶やウエハー製造設備への投資が進み、原材料のコスト低減が期待できるなど、GaNにとっては追い風となる。

 例えば、GaNウエハー国内最大手の住友電気工業は、2011年度中に6インチウエハーを製品化する。三菱化学も2015年度までに現在のGaNウエハーの生産能力を200倍に引き上げる。同社はGaN結晶を現在の気相法(HVPE:Hydride Vapour Phase Epitaxy)から、液相成長法(アモノサーマル法)に切り替えることで、低コストで量産する計画だ*1)

*1)経済産業省の「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」(2010年度〜2014年度)では、SiC結晶の液相法を開発中である。

ALT 図3 東北大学のGaN製造手法 人工水晶製造時とほぼ同等の200MPa以下の低圧力下で500℃に保つ。GaN多結晶と超臨界状態のNH3によって、種結晶からGaN単結晶を成長させた。出典:東北大学

 東北大学は2011年3月、アモノサーマル法を使ったGaN単結晶育成に成功したと発表した(図3)。この単結晶の製造方法を基板として使い、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)/GaN構造のヘテロ接合をエピタキシャル成長させ、HEMT(High Electron Mobility Transistor)構造を試作、二次元電子ガスが生成したことを確認した。アモノサーマル法によって、GaNパワー半導体に利用できる品質のGaN結晶が得られたことを意味する。

GaNで狙える用途は多岐にわたる

 パワー半導体各社は、どのようなアプリケーションに向けたGaNパワー半導体を狙っているのだろうか。

 富士通セミコンダクターは、GaNパワートランジスタ向けの試作ウエハーを2010年10月に公開しており、パッケージに封止した形も見せた。2012年の量産に向け、2011年中にサンプル出荷を開始する。AlGaN/GaNのHEMT構造を採り、二次元電子ガスにより高い移動度が得られており、ノーマリーオフ動作ができるよう構造を工夫した。GaNが高周波動作に向くことから、主なアプリケーションはサーバに組み込むスイッチング速度の高い電源だ。PC用のDC-DCコンバータなどに適用した場合でもSiパワー半導体と比べて電源部を小型化できるという。

 サーバ機での利用を狙っているのは富士通だけではない。Googleは、2011年2月、2007年に設立されたTransphormというベンチャー企業に3800万ドルの資金を投じた。TransphormはGaNパワー半導体を採用することで、電力変換時の損失を90%削減することを目的とした技術開発を進めている。同社の共同創設者でCEOであるウメシュ・ミシュラ(Umesh Mishra)氏はカリフォルニア大学サンタバーバラ校のGaN研究センターの教授でもある。Googleは投資の意図をはっきりとは説明していないが、同社が世界最大規模のデータセンターを運営していることから、サーバの消費電力低減を狙っているのではないかと考えられる。

ALT 図4 パウデックが想定するGaNの用途 PCやサーバ、通信機器の電源だけでなく、EVや太陽光発電、産業モーターにも向くとした。

 低価格で汎用のGaNパワー半導体を狙う企業もある(図4)。古河金属工業と資本提携したベンチャー企業のパウデックは、2010年11月に耐圧600Vのショットキーバリアダイオード(SBD)を開発、2011年3月には耐圧1100VのGaNパワートランジスタを開発した。パウデックはサファイア基板を使うことで製造コストと品質のバランスをとった。サファイア基板はLEDで広い採用実績があり、LED並のコストでGaNパワー半導体を製造できる可能性があるという。

 低価格なGaNパワー半導体を作る手法は幾つかある。基板コストが最も低くなるのはSi基板(GaN on Si)を採用することだ(図5)。MHz級の高周波動作領域を狙うロームや、高耐圧を狙うサンケン電気やパナソニックなど各社がさまざまな領域に向けたパワー半導体を開発中だ。

ALT 図5 Si基板を利用したGaNの開発 基板コストを抑えることができるため、複数の企業がSi基板の利用を予定している。2010年10月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がまとめたもの。

 ただし、SiとGaNの結晶格子定数の違いから、GaN結晶に格子欠陥が発生しやすくなる。GaN膜厚を薄くすることで欠陥を少なくできるが、単に薄くするだけでは耐圧が落ちてしまう。そこで、各社はSiとGaNの間にバッファー層を設けるなどの回避策を開発中である。

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