3D液晶を搭載した携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」。技術情報サービスを手掛けるUBM TechInsightsが、任天堂のこの新型機を分解調査した。
3D液晶を搭載した携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」。技術情報サービスを手掛けるUBM TechInsights*1)が、任天堂のこの新型機を分解調査したところ、富士通セミコンダクターの独自メモリ「FCRAM(Fast Cycle RAM)」が搭載されていることが明らかになった(図1)。UBM TechInsightsがこれまで実施してきた分解調査の中で、富士通セミコンダクターのFCRAMの採用を発見したのは、初めてのことだ(表1)。
FCRAMは、SDRAMインタフェースまたは、DDRインタフェースを備えたRAMで、高速のデータ転送と低消費電力の両立を実現している。デジタルテレビやビデオカメラなどのように、表示処理や映像処理で高速なデータ転送を必要とする民生機器に向いている。今回、UBM TechInsightsが確認したFCRAMは2つあり、メモリ容量はいずれも64Mバイトだった。
同社のテクニカルマーケティングマネジャーを務めるAllan Yogasingam氏は、「ニンテンドー3DSは、合計で128MバイトのRAMを搭載した。FCRAMを採用したことで、DDR3メモリと同等のパフォーマンスを低い動作周波数で実現できる。素晴らしい性能だ」と述べた。
米国の市場調査会社であるIHS iSuppliも、ニンテンドー3DSの分解調査を実施した。同社は、富士通セミコンダクターの独自技術であるFCRAMを採用したことに対して、任天堂にとって潜在的な課題になると指摘した。
機器設計するときは多くの場合、電子部品の供給リスクを低減しつつ、最適なコストを維持できるよう、複数のサプライヤーからメモリを調達するのが一般的だ。しかし、RAMについては、「任天堂にとって、富士通セミコンダクターが唯一の調達先になったことで、安定調達に対するリスクを抱えるだけではなく、主要部品のコストを低減する可能性も制限されることになった」(IHS iSuppliの分解サービス部門のシニアディレクターを務めるAndrew Rassweiler氏)という。
安定調達に対するリスクなどがあるにもかかわらず、任天堂がFCRAMを採用した理由を、UBM TechInsightsのYogasingam氏は次のように推測した。「データ転送が高速にできるメモリを搭載することは、調達先が1社の独自メモリを採用するリスクに見合うほど、魅力的だったに違いない。エルピーダや、Hynix Semiconductor、Samsung Electronicsといった多くのベンダーがあるLPDDR2 DRAMとは異なり、FCRAMの供給元は富士通セミコンダクターだけだ。最近、日本で発生した大地震や津波が、製造に影響を与えたとするならば、任天堂はゲーム機の製造が遅れるというリスクに直面することになるだろう*2)」。
ニンテンドー3DSは、2011年3月27日に米国の小売店に並んだ。IHS iSuppliの予備分析によると、ニンテンドー3DSの総コストは、100.71米ドルの部品コスト(BOM)と、1台当たり2.54米ドルの製造コストを合わせて、合計103.25米ドルだった。これに対して、米国での販売価格は250米ドルである。同社によると、ニンテンドー3DSの部品コストは、約2年前に発売された旧機種「ニンテンドーDSi」に比べて、33%増えたという。
ニンテンドー3DSには、富士通セミコンダクターのFCRAMの他に、シャープの子会社で米国に拠点があるSharp Electronicsが製造したアプリケーションプロセッサや、Samsung ElectronicsのNAND型フラッシュメモリ、米国に本社があるInvenSenseとSTMicroelectronicsのMEMSセンサー、Atheros Communicationsの無線LANモジュール、3D映像を作成するためのカメラシステムなどを搭載している(図2、図3)。カメラシステムは、3つのVGAカメラで構成した。また、ニンテンドー3DSのディスプレーはシャープ製で、3.5インチ型、画素数は800画素×240画素である。電源となるリチウムイオン二次電池の電流容量は1300mAh、出力電圧は3.7Vである。
ニンテンドー3DSの構成について、UBM TechInsightsのYogasingam氏は「大枠では、従来通りの任天堂の機器設計に従っている」と述べた。ニンテンドー3DSに採用された半導体チップや電子部品の供給元の多くは、ニンテンドーDSiや、「ニンテンドーDSi XL(日本国内では、ニンテンドーDSi LL)といった従来機種にチップや部品を供給してきた企業である。
任天堂が、3D映像専用の眼鏡が不要な『オートステレオスコピック(複合視差知覚)ディスプレー』を採用したことは、勇気ある取り組みだった。「幾つかのゲームを試したところ、3D表示の映像は非常に自然に感じられた」(同氏)という。
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