オフィスや家庭といった日々の生活シーンで、節電に取り組もうという機運が高まっている。継続的な節電に貢献するのが、「消費電力の見える化」や、「宅内エネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)」による機器制御の仕組みである。
過去数十年、今ほど節電意識が高まったことがあっただろうか。東日本大震災による原発事故の影響で、東京電力の電力供給力は大幅に低下した。これに伴って、日常生活のさまざまな場面で「節電」の文字を見るようになった。
原子力発電を推進してきたエネルギー政策は見直しを迫られ、電力を取り巻く社会システムが、大きく変わろうとしている。再生可能エネルギーを積極的に電力源として利用する試みに加え、送配電網と情報通信技術を融合させた「スマートグリッド」の導入、電気自動車を含む蓄電池を活用する動きが加速するだろう。
変化は、社会システムという大きな枠組みにとどまらない。オフィスや家庭といった日々の生活シーンでも、節電に取り組もうという機運が高まっている。継続的な節電に貢献するのが、「消費電力の見える化」や、「宅内エネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)」による機器制御の仕組みだ。
もちろんこれまでも、オフィスや宅内の消費電力を監視する仕組みはあった。ただそれらは、配電盤や分電盤に電力計を設置し、全体または系統ごとの消費電力を把握するものが主だった。ここ最近注目が集まっているのは、より細かく、機器ごとに消費電力を測定しようという取り組みである。機器ごとの消費電力の情報をインターネット上のアプリケーションソフトウェアと連携させ、利用者の行動を促すといったサービスの準備も整ってきた。
2011年5月に開催された組み込み機器の総合展示会「第14回組込みシステム開発技術展(ESEC2011、2011年5月11〜13日)」や、無線通信関連の展示会/セミナー「ワイヤレスジャパン2011」(2011年5月25〜27日)では、消費電力の見える化に使う電源タップを各社が出品し、参加者の注目を集めていた(図1)。出展企業からは、「これまでにないぐらい、注目を集めている。いろいろな問い合わせを受けている状況だ」(NTTドコモの担当者)といったコメントがあった。
これらの電源タップには、電力測定用センサーと無線通信機能が組み込まれている。各コンセントに接続した機器の消費電力の情報を、無線ルータを介してインターネット上のサーバに送れることが大きな特徴である。
無線機能を搭載した電源タップを展示した各社は、コンセントに接続した機器ごとの消費電力の情報を、タブレットPCやノートPCで確認できることや、電源のオン/オフを制御できることを見せていた。各ブースの担当者によれば、このような仕組みを導入することで、「いかに節電するかというポイントが明確に分かる」といった効果や、「消費電力の値を見せることで、日々の生活における節電意識を高めることにつながる」、「消費電力の情報を基に電力の使い方をアドバイスするといった、インターネットサービスと連携させやすくなる」という効果が得られるのだという。
消費電力の見える化に使える電源タップの構成は前述の通りシンプルだが、各社が異なる無線通信規格を採用しており、統一されていない。この点は、電源タップを使った節電システムの普及を進める上で、障壁になる可能性がある。
候補に挙がっているのは、物理層に「IEEE 802.15.4」規格を採用した独自プロトコルの無線や、低消費電力の無線通信規格「ZigBee」、920MHz帯または950MHz帯を使う「Z-Wave」、無線LAN(Wi-Fi)などである。ESEC2011やワイヤレスジャパン2011では、電源タップを展示した各社が自社製品の特徴に加えて、採用した無線通信方式の優位性をアピールしていた。
例えば、NTTドコモは、ワイヤレスジャパン2011で、Z-Wave方式を採用した電源タップ(同社は「スマートタップ」と呼ぶ)を使った「省エネ支援サービス」のデモを披露した(図2)。
電源タップを使って各機器の消費電力を測定し、ブリッジ機器を介してインターネット上の管理サーバに情報を送る。この情報を基に、電気料金を表示したり、使用傾向を分析したり、節電目標に対する達成度合いを提示したりといった、節電のための行動を促す情報を提供するサービスである。現在、試験的にサービスを実施している。
同社ブースの担当者によれば、幾つかの無線通信方式を検討したところ、最も適していたのがZ-Wave方式だったという。
同社が重視したのは、機器の相互接続性だった。「Z-Wave方式は相互接続性を確保するように、仕様を徹底的に規定している。認証が取れれば、どの機器でも全てつながるという安心感がある」(同担当者)。Z-Waveの開発元で、米国に本社を構えるSigma Designsも、同方式がアプリケーション層まで規定しており、相互接続性の確保を徹底していることを最大の特徴に挙げる。
もちろん、NTTドコモが検討した方式のうち、ZigBeeやWi-Fiも、各業界団体が認証試験を実施している。ただ、「ZigBeeは、機器設計者がアプリケーション層をカスタマイズしやすい。機器ベンダーが顧客の要望に合わせてきめ細かくカスタマイズできる一方で、相互接続性を確保できなくなるケースがある」(同担当者)という。
もう1つの候補であるWi-Fiは、無線LAN技術の業界団体「Wi-Fi Alliance」によって、規格に準拠することや相互接続性を確認する認証作業が進められており、合格した機器に「Wi-Fi Certified」のロゴが付与される。しかもWi-Fiは、インターネットへの接続性が高いという大きなメリットもある。ただ、同担当者は、「用途によってはWi-Fiも有効だが、消費電力が高いという大きな課題がある」と指摘した。
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