電力の見える化が広まれば次に来るステップは、空調や照明といったさまざまな機器の稼働状況を、その時々の環境に合わせて制御するHEMSの実用化である。HEMSの頭脳となるのが、機器制御を管理するHEMSコントローラーだ。HEMSコントローラーが、どのような状況で、いかに機器を制御するかを各機器に指令する。
ESEC2011の会場では、組み込みソフトウェアの開発支援ツールを手掛けるキャッツが、同社の開発環境を使って設計したHEMSコントローラーのデモを見せていた(図5)。
同社は、状態遷移モデルを設計し、シミュレーションやコード生成を実施する離散制御系の開発環境である「ZIPC」と、力学や電磁気、熱など複合物理領域にまたがる、連続系シミュレーション環境を提供する解析ツール「MapleSim」を連携させたツールを、HEMSのシミュレーション用に2010年6月から提供してきた。
照明やエアコン、テレビ、電気自動車といった要素をMapleSimでモデリングし、ZIPCで電力制御アルゴリズムを作成する。システム全体を扱う複雑な電力制御アルゴリズムを設計できることが特徴で、簡単な例を挙げると、「消費電力400Wまでは外部電源を使い、400Wを超えたら蓄電池を使う。さらにその後、500Wを超えたら、照明を切る。400Wを超えた後に、450Wを下回ったら、太陽光発電を蓄電に使う」といった制御アルゴリズムを設計できる。
これまではZIPCとMapleSimを連携させたツールだけだったが、今回は、National Instrumentsの、計測/制御アプリケーション用のグラフィカル開発ツール「LabVIEW」と連携させた。MapleSimとZIPCでモデリングした電力制御モデル(状態遷移モデル)をLabVIEW環境に取り込むことで、HEMSの状態をリアルタイムに実際に計測・検証することが可能になった。
この他、東電ユークエストは、人工知能を使った空調制御システム「COOL BRAIN」を同展示会で紹介していた(図6)。室内の温度や湿度、消費電力の履歴、気象データを基に、空調の運転状態を自動制御するシステムである。例えば、在室している人数が増えたり減ったりといった室内環境の変化に対して冷やし過ぎを防いだり、外部の気温に合わせて設定温度を制御したりすることで、消費電力を削減する。オフィスや商業施設、病院などを対象にした制御システムで、既に家電量販店と映画館への導入実績がある。現在、病院への導入に向けて、実証実験を進めている段階だという。
同社が目指したのは、省エネと快適性の両立である。人工知能技術を活用することで、消費電力を削減しつつも、利用者に違和感を与えないようなシステムを構築した。この空調制御システムは、直接的に消費電力を制御しているわけではない。ただ、将来的には、使用期間が長くなるほど機器の稼働状況の予測精度を上げられる人工知能技術を、HEMSの電力制御システムに融合する取り組みが進みそうだ。
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