環境発電とは、環境に存在するさまざまなエネルギー源をうまく収集(収穫)し、有効に利用しようという技術を指す。
われわれの周囲には普段意識していないものの、さまざまなエネルギー源が存在する(図2)。例えば、光。太陽光発電などのように、光を電気的なエネルギーに変換するデバイスによって、太陽光や照明光を有用なエネルギーとして抽出できる。
環境にあるエネルギー源としては他にも、機械的な変位や振動、熱電位差、電磁波などがある。太陽光をはじめ、人がスイッチを押したときの機械的な変位、自動車のタイヤやモーターの振動、工業プラントの配管の熱、携帯電話基地局やテレビ放送局から放出された電磁波といったエネルギー源を、電気的なエネルギーに変換してデータの無線伝送などに使う。これが環境発電のコンセプトである。
周囲の環境からエネルギーを収集する環境発電技術のメリットは、一次電池やケーブル接続が不要ながらも、センサーのデータを取得・無線伝送できるという、この一言に尽きるだろう。
一次電池を使うと、寿命を迎えた電池を取り換えるまでにデータが欠損してしまうという機会損失が発生したり、取り換えの作業に手間やコストが掛かってしまうという懸念がある。半導体部品の低消費電力化を背景に、ボタン型電池1つで無線センサーを稼働できる時間は延びた。低消費電力の無線通信方式を使えば、数年といった期間でセンサーを稼働させることも可能だ。しかし、電池のそのものの自己放電も考慮すると、10年を超えるような長い期間、稼働させるのは難しいだろう。
かと言って、前述の通り、屋外に無数のセンサーを設置しようとしたときに、それぞれにケーブルを接続するのは現実的ではない。環境発電技術によって、センサー設置時に、ケーブル接続を不要にできれば、導入コストを削減できる。歴史的な建造物など、そもそも配線を引き回すことを好まないケースもあるだろう。
多くのメリットのある環境発電技術だが、環境に存在するわずかなエネルギー源を取り扱うことに起因した特有の難しさがある。
環境発電技術を採用した通信モジュールは、環境から電力を抽出するハーベスタや、電源管理、蓄電デバイス(二次電池)、マイコン、無線通信回路、センサーといった複数のブロックで構成されている(図3)。
一般に、ハーベスタによって環境から収集した電力は、電源ICで昇圧/降圧および安定化した後、何らかの蓄電デバイスに蓄えられる。この蓄えられたエネルギーが、マイコンや無線通信回路、センサーといった、データを取得・伝送する回路の動力源になる。
それぞれのブロックには、乗り越えるべき技術的な課題がある。まず、ハーベスタに注目しよう。電力を生成するハーベスタには、なるべく大きな電力量を安定して後段に供給することが求められる。ハーベスタの生成電力は、ハーベスタの種類や寸法に依存するものの、一般には1μW〜100mWとごくわずかである。大きな電力量を安定して生成できれば、後段の電源管理ブロックを介して、継続的に蓄電デバイスに電力を供給できることになり、システムは安定する。
しかし、太陽光や振動、熱、電磁波といった環境のエネルギー源は、常に一定というわけではなく、その時々の状況で大きく変わる。従って、ハーベスタが生成する電力も不安定で、電力量もわずかなものになる。この不安定でわずかな電力源を受け取り、蓄電デバイスまたは負荷に電力を伝える仲介役となるのが、電源管理ブロックである。ハーベスタの供給能力に合わせて効率良く電力を取り込み、後段に伝えるという重要な役割を担う。
電源管理ブロックに求められる仕様は多様だ。まず、電源管理ブロック自体の消費電力が低く、変換効率が高いことが求められる。
さらに、高い電圧値でエネルギーを出力するハーベスタに対しては、広い入力電圧範囲を確保しつつ、効率よく降圧するDC-DCコンバータが求められる。一方で、極めて低い電圧を出力するハーベスタに対しては、所定の電圧まで効率よく昇圧できるDC-DCコンバータが必要になる。一般に、対応する入力電圧の幅が広かったり、入力電圧の絶対値が極端に小さいと、変換効率を高めるのが難しくなる。この点が、環境発電向け電源管理ブロックの課題とされてきた。この他、軽負荷時にも効率良くエネルギーを変換して伝えられることや、過負荷時の過電流保護も大切な仕様である。
電源管理ブロックから電力を受け取る蓄電デバイスには、自己放電(漏れ電流)が小さいことが求められる。せっかく、わずかなエネルギーを蓄電デバイスに蓄えたとしても、自己放電が大きければ、有効に使う前に消費されてしまうからだ。この他、出力密度が高いことや、十分な寿命があること、安全性が確保されていることといった、蓄電デバイスならではの指標がある。
最後に、センサーが測定したデータを制御・伝送するマイコンや無線通信回路のブロックでは、消費電力の低さが最も重要な指標になる。稼働時の消費電力が小さいことはもちろんのこと、例えば、間欠動作させることで平均の消費電力を下げる仕組みも重要だ。無線通信回路であれば、受信感度を高めることも消費電力の抑制につながる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.