今回は、前回紹介した周波数マッチング(発振周波数精度)の評価に続いて、発振余裕度(負性抵抗)と励振レベル(ドライブレベル)の評価に移りましょう。
水晶発振回路を評価する際には、周波数マッチング(発振周波数精度)の評価の他に、発振余裕度(負性抵抗)や、励振レベル(ドライブレベル)を同時に測定する必要があります。今回は、前回(本連載の第8回)紹介した周波数マッチング(発振周波数精度)の評価に続いて、発振余裕度(負性抵抗)の評価に移りましょう。
発振回路の負性抵抗特性と発振余裕度を簡単に評価する方法として、水晶振動子のHOT端子部に抵抗を挿入し、発振するかしないかを見ることで、負性抵抗RNを調べる手法があります。挿入する抵抗の値(損失の大きさ)を変えることで、発振回路の能力を調べられます。
図1に負性抵抗を測定する回路図を示しました。負性抵抗の絶対値は、挿入した抵抗値Rと水晶振動子の負荷接続時の等価抵抗(Re)を合わせた値になります。
ここで、水晶振動子の負荷時等価抵抗(Re)は、以下の(2)式で求められます。R1は、水晶振動子の負荷容量がないときの等価直列抵抗です。
例えば、先に紹介した水晶振動子は、R1が33.7Ω、等価並列容量(C0)が1.11pF、負荷容量(CL)が7.8pFですので、Reは(2)式を使って計算すると、44Ωになります。このときのR1は実測値であり、購入した水晶振動子の規格値ではありません。仮に、規格値の最大値として例えばR1が57Ωとうたわれていた場合、Reは負荷容量の影響で74Ωに増加することに気を付けてください。
図2は、負性抵抗測定のために、抵抗を測定した例です。図2の状態で、オシロスコープにて波形を確認します。挿入抵抗Rを、小さい値から大きい値に徐々に変えて、発振しなくなるポイントを探します。このとき、抵抗を挿入したことによる、発振出力の低下や発振周波数の変化は無視し、単に発振したかどうかのみを判定します。
次に、負性抵抗RNが決まったら、発振余裕度(RN/Re)を計算しましょう(表1)。発振余裕度が低いと、回路の特性ばらつきによる発振の不安定、不発振、発振立ち上がり時間が長くなるなどの不具合現象が発生してしまうので、注意が必要です。
通常、発振余裕度は5以上あれば、問題ありません。発振回路が十分に水晶振動子を励振する能力(増幅度)を有していることを意味します。もし、発振余裕度が5以下の場合は、発振回路の回路定数を変更し、負性抵抗RNを大きくするか、もしくは水晶振動子の等価直列抵抗Reを小さくして、発振余裕度を5倍以上に保つようにしましょう。
トリマコンデンサ(CgやCd)、制限抵抗(Rd)といった発振回路の回路定数を小さくすると負性抵抗が大きくなり、発振余裕度も大きくなります。ただし、回路定数が変わると発振回路の負荷容量も変化してしまい、発振周波数も変わるので、注意しましょう。水晶振動子の等価直列抵抗R1そのものを小さくしたい場合は、水晶メーカーに問い合わせ、仕様を再検討してください。
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