スマートグリッドの全体像を把握し、導入に向けた今後の展開を読むには、IECや、IEEE、ITU-Tといった国際標準化団体の動向をつかんでおくことが必要だ。
現在、「スマートグリッド」をキーワードにさまざまな実証実験が実施され、各企業は製品化に向けた取り組みを進めている。ただ、さまざまな事業領域が関係していることもあり、スマートグリッドの全体像を把握しにくいのが現状かもしれない。その全体像を把握し、導入に向けた今後の展開を読むには、IEC(国際電気標準会議)や、IEEE(米国電気電子技術者協会)、ITU-T(国際電気通信連合標準化部門)といった標準化団体の動向をつかんでおくことが必要だろう。
そこで、IEEEにおいて標準化活動を監督するIEEE Standards Associationが東京都内で開催した報道機関向け説明会「再生可能エネルギー利用に向けたスマートグリッドに関する国際標準化動向」の内容を元に、標準化動向の概要をリポートしよう。
ひと言にスマートグリッドと言っても、さまざまな捉え方がある。説明会に登壇した慶應義塾大学の先導研究センターの共同研究員である井上恒一氏(図1)はまず、スマートグリッドを「送配電網への情報技術の導入による次世代エネルギーインフラ」と定義した。ここでキーワードになるのは、エネルギーと情報の自律・分散的な双方向化である。具体的には、大量の分散電源の導入によるエネルギーの双方化と、供給側と需要側を結ぶ情報網の双方化だ。
日本では既に、潤沢な設備投資によって世界トップレベルの信頼性を有する電力供給網が構築されている。ここでいう信頼性とは、停電時間が短いことや、供給する電圧の振幅や周波数の安定度が高いこと。ただ、電力供給網の信頼性が高いからといって、スマートグリッド化が不要かというと、そうではない。井上氏は、既存の電力供給網をスマートグリッド化することで、再生可能エネルギーの大量導入を可能にするとともに、省エネルギーを実現できると説明した。
現在、米国の商務省傘下の国立標準技術研究所であるNISTの他、前述のIECやIEEE、ITU-Tといった国際標準化組織で、スマートグリッドに関連したシステムや技術の標準化が進められている(図2)。
例えばNISTは、2010年1月に「スマートグリッドの相互運用性に関する規格のフレームワークおよびロードマップ(第1版)」をまとめた(関連記事)。ITU-Tは2010年2月に、「FG Smart(Focus Group on Smart Grid)」を立ち上げ、スマートグリッド関連の標準化に向けた課題のとりまとめを進めている。「ユースケース」、「要求条件」、「アーキテクチャ」に関する3つの作業部会を設置し、現在はそれぞれの部会での成果文書を作成中である。2011年12月には、最終版をまとめる予定だという。
井上氏が時間を割いて説明したのが、IEEEの取り組みだった。IEEEは、2008年からスマートグリッドに焦点を当てた作業に取り組んできた。これまでに、100以上の既存規格をスマートグリッド向けに拡張した。最近の話題として同氏が挙げたのが、スマートグリッドの相互運用性を確保するためのガイドライン「IEEE P2030」である(図3)。ドラフト版の最終的な投票作業に入った。2011年末にはガイドラインが発行される見込みである。
IEEE P2030では、電力網、通信網、ITシスムというそれぞれのレイヤーで相互接続が確保できるよう、アーキテクチャを規定している。現在は、IEEE P2030を電気自動車に拡張した「IEEE P2030.1」や、蓄電システムと電力フロー制御に拡張した「IEEE P2030.2」、試験仕様を規定した「IEEE P2030.3」の策定が進められているという。
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