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第11回 高周波出力に対応した水晶発振器を解説水晶デバイス基礎講座(4/5 ページ)

» 2011年11月07日 10時00分 公開
[宮澤輝久,セイコーエプソン]

 PLL回路を使った水晶発振器は、5〜6年前の時点では位相雑音の観点で通信用途に向きませんでしたが、近年の半導体製造技術の進化によって状況は変わりました。位相雑音性能が改善したことで、一部の通信用途に適用可能な性能を達成しています。一例として、図5に5〜6年前の品種の位相雑音特性を、図6に最近の品種の位相雑音特性を示し、両者を比較しました。

 近年、半導体技術の飛躍的な進歩に伴い、ダイレクト・デジタル・シンセサイザ (DDS :Direct Digital Synthesizer)を使ったPLL発振回路も製品化されています。この方式は、累積加算器とレジスタなどで、入力信号をデジタルデータ化し、そのデータに基づいた正弦波データを内蔵ROMから呼び出して、純度の高い正弦波信号を作り出すという方式です。桁数の多い加算器を用いることで高分解能が得られる優れた方式で、細かい周波数の設定も可能です。その反面、設定によっては、スプリアスが出やすくその除去が必要になるといった留意点もあります。

図 図5 5〜6年前に製品化された、PLL回路を使った水晶発振器の位相雑音特性
図 図6 最近製品化された、PLL回路を使った水晶発振器の位相雑音特性

高周波を基本発振する2つの手法

 これまで、ATカット型水晶振動子に周波数逓倍回路やPLL回路を組み合わせる方法を紹介してきました。しかし、水晶振動子を発振させる発振回路の設計がどうしても難しくなることや、雑音を抑えるのが難しいといった問題があります。

 そこで、水晶デバイスを使いつつも、数百MHzの高周波を基本波として発振させる技術の研究が進められてきました。基本波で高周波を発振できれば、高調波成分の抑制が可能になるため、ジッタ特性や雑音特性の優れた出力信号を得られます。以下に、高周波を基本発振で出力するタイミングデバイスとして、(1)インバートメサ型ATカット振動子と、(2)SAWデバイスを取り上げます。

 前述の通り、ATカット型水晶振動子は、高周波振動させるためには水晶片を薄くする必要があります。しかし、水晶片を薄くし過ぎると、機械的な強度が下がり取り扱いが難しくなります。これを防いだのが、インバートメサ型ATカット型振動子です(図7)。水晶片の振動面のみをフォトリソグラフィ技術で薄くし、振動に影響のない部分を強度確保のため厚く加工しています。水晶片を断面から見たとき、ちょうど台形のような形状をしていることから、インバートメサ型と呼ばれます。

図 図7 インバートメサ型ATカット型振動子の構造

 加工技術の精度にも依存しますが、100〜400MHz程度の周波数であれば、温度特性が良好といったATカット型の特徴はそのままに、高調波を基本波で発振させられます。400〜700MHz帯の周波数を得るには、精度が極めて高い加工技術が必要ですが、一部で実用化されています。

 インバートメサ型ATカット型振動子を使った水晶発振器は、周波数逓倍回路やPLL回路を使った水晶発振器に比べて、位相ジッタ特性の観点でも優れています。その一方で、水晶片を加工する工程が増えてしまうため製造コストが上昇してしまうという欠点もあります。さらに、形状管理が性能に影響するため、製造プロセス管理の観点で、大量生産には向きにくい振動子です。

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