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電子機器の要「タイミングデバイス市場」に今何が起こっているのか?電子部品 タイミングデバイス(2/2 ページ)

» 2011年11月22日 08時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]
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TCXOやOCXO相当のMEMS発振器が量産段階へ

 MEMS発振器が市場全体に与える影響が限定的だと言えなくなっているもう1つの理由、高精度のMEMS発振器が製品化されたという点に話題を移そう。

 ひと言に発振器といっても、周波数精度に応じて複数の種類に分かれる。周波数精度が10〜100ppmの一般水晶発振器(SPXO)や電圧制御型水晶発振器(VCXO)、精度が0.1〜5ppmの温度補償型水晶発振器(TCXO)、0.1ppm以下の恒温槽付水晶発振器(OCXO)などである。これまでMEMS発振器が入り込めていたのは、それほど高い周波数精度が要求されない機器に向けたSPXOやVCXOの市場だけだった。

図 MEMS発振器で、SPXOやVCXOのみならず、TCXOやOCXOの市場も狙う

 そもそも、材料の物性で考えると、Siのタイミングデバイスとしての物性は、温度特性や共振の鋭さ(Q値)といった観点で水晶よりも劣る(関連記事水晶を発振器に使う5つの理由)。従って、MEMS発振器を使ってTCXOやOCXOに相当する周波数精度を実現するのは現実的ではないと、数年前までは考えられていた。

 このような認識を覆したのが、SiTimeが2011年2月に発表したMEMS発振器の新アーキテクチャ「EnCore」である(同社のニュースリリース)。MEMS振動子の基本共振周波数を従来の5MHzから48MHzに高めるとともに、発振回路やPLL回路、温度特性の補正回路を刷新したものだ。

図 SiTimeが2011年2月に発表したMEMS発振器の新アーキテクチャ「EnCore」のブロック図

 2011年7月にはEnCoreを採用した周波数精度が±0.5ppmのTCXOを発表し、2011年11月には周波数精度が±0.1ppmとOCXOに匹敵するMEMS発振器を発表した。TCXOは既に量産を始めており、OCXO相当のMEMS発振器は2011年12月に量産を始める予定だという。

 この他、タイミングデバイス市場を狙う新興企業の1社であるSand 9は、独自のMEMS発振器「TCMO(Temperature Compensated MEMS Oscillator)」を発表した。現在、−40℃〜85℃の温度範囲にわたって±2.5ppmの周波数精度を確保しながら、出力周波数近傍の位相雑音も低く抑えた品種を開発中である。

 SiTimeによれば、18億米ドルの発振器の市場規模のうち、SPXOとVCXOを合わせた市場規模は8億5000万米ドル。これに対して、TCXOとOCXOを合わせた市場規模は9億5000万米ドルと大きい。しかも、ライバルとなる企業は、SPXOやVCXOに比べると、TCXOとOCXOの方が少ない。「SPXOのベンダーが50社であるのに対して、TCXOのベンダーは15社だ」(同社)。MEMS発振器のベンダーにとってTCXOやOCXOの市場への参入は、技術的な難易度は高いものの、挑戦する意味のある魅力的な市場なのだ。

機を捉え、タイミング市場に続々と参入

 水晶デバイスの置き換えを狙うタイミングデバイスの出荷数量は、右肩上がりに増えている。SiTimeを例にすると、2009年の出荷数量が900万個だったものが、2010年には2.4倍に相当する2200万個に増えた。2011年の出荷数量は4500〜5500万個に増える見通しだという。これらの数量は市場全体から見るとごくわずかだが、同社は売上高を5年以内に4億米ドルに高めるという大きな目標に掲げている。この目標が達成できたと仮定すると、タイミング市場全体の8%の市場シェアを占めることになる。

図 SiTimeのMEMS振動子、MEMS発振器の出荷数量の推移

 出荷数量は倍々で増えているとはいえ、今後どのように推移するかまだはっきり見えていない。ただ、これまでタイミングデバイスに注力してこなかった幾つかの企業がタイミング市場を魅力的な市場と捉え直し、事業を強化していることは確かだ。

 その代表例が、Silicon Laboratoriesである。同社の日本法人が2011年6月に開催した事業説明会に登壇した代表取締役社長を務める大久保喜司氏は、「従来、タイミングデバイス市場は大きな変化のない熟成した市場と見られていたが、今は違う。当社のようなミックスドシグナルを強みにする半導体ベンダーに、新規参入の機会が生まれている」と語った。Silicon Laboratoriesは、MEMS技術を使ったタイミングデバイスを手掛けるSilicon Clocksを買収することを、2010年4月に発表した。Silicon Clocksの技術を使ったMEMS発振器を、2012年に製品化する予定だ。

図 Silicon Laboratoriesも、タイミングデバイス分野を強化する姿勢を鮮明にしている 2012年には、買収したSilicon Clocksの技術を使ったMEMS発振器を製品化する予定。

 この他、クロック生成/分配ICや高速シリアルインタフェース対応スイッチICなどを手掛けるIntegrated Device Technology(IDT)は、LC型CMOS発振器の独自技術を有するMobius Microsystemsを2010年1月に買収した。買収後、IDTとして初のCMOS発振器「IDT3C02」を2010年10月に発表して以降、品種拡充を続けている。2011年10月には、周波数精度を同社従来品の±100ppmから±50ppmに向上させたCMOS発振器の新製品「3LGシリーズ」を発表した(関連記事)。

図 Integrated Device Technology(IDT)のLC型CMOS発振器の精度向上の歴史 2010年10月にIDTとして初のCMOS発振器「IDT3C02」を発表した。LC型CMOS発振器も周波数精度の向上が著しい。
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