メディア

“ポストシリコン”狙うカーボンデバイス、性能も製造性も着実に向上プロセス技術 IEDM2011(1/2 ページ)

現在、半導体材料の圧倒的な主流はシリコンである。しかし、材料特性がシリコンとは大幅に異なる点を利用して新しい機能のデバイスを実現しようとする取り組みも進んでいる。先週ワシントンD.C.で開催された半導体デバイス技術に関する世界最大の国際会議「IEDM 2011」から、最新の研究成果をリポートする。

» 2011年12月13日 12時41分 公開
[福田昭,EE Times Japan]

 半導体デバイス技術と半導体プロセス技術の研究開発に関する世界最大の国際会議「IEDM 2011(2011 IEEE International Electron Devices Meeting)」が2011年12月5〜7日に米国ワシントンD.C.で開催された。IEDMは毎年12月上旬に開催される、半導体デバイスの開発を代表するイベントの1つ。全世界の技術者が発表を目指して投稿した651件の論文の中から、実際に講演の機会を得た216件の開発成果が公表された。投稿件数の約3分の2が落選するという狭き門である。

 そして3日間(初日の午前はプレナリ講演なので実際には2日半)で216件の論文を発表するため、同時に6本〜7本の講演セッションが開催されることが珍しくない。すべてのトピックスを網羅することは困難である。そこで本リポートでは、最近注目されているテーマに絞って開発成果をご紹介する。

半導体開発の3つの方向

図1 図1 IEDMのロゴマーク

 現在のところ、半導体デバイスや半導体プロセスなどの研究は大きく、3つに分類できる。1つは、代表的なデバイスであるシリコン半導体の性能を高めようとするもの。もう1つは化合物半導体の研究で、シリコン半導体では不可能に近い発光デバイスや、シリコン半導体よりも原理的に高速なデバイスや耐圧の高いデバイスなどを実現しようとするもの。最後は、既存の半導体とはかなり異なる材料(異種材料)を使ったデバイスの研究で、材料特性がシリコンとは大幅に異なる点を利用して新しい機能のデバイスを実現しようとするもの、である。

 最後の異種材料を使った研究の代表例が、カーボン(炭素)を材料とするデバイスの研究である。試作したデバイスの性能が急速に向上しており、シリコン(ケイ素、Si)の限界を超えるデバイスの候補として研究開発が活発になっている。

 カーボンといえば、天然資源では黒鉛(グラファイト)やダイヤモンドなどの鉱物、工業材料では炭素繊維(カーボンファイバ)といった高強度構造体などが知られている。半導体デバイスの世界では、カーボンでも非常に特殊な構造の人工的な材料を利用する。研究の対象となっている構造体は主に2種類あり、1つは「グラフェン(Graphene)」、もう1つは「カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano Tube)」と呼ばれている。

 グラフェンは黒鉛(グラファイト)から派生した材料といえる。炭素原子が六角形を形成し、その六角形を並べたシート状の層を積み重ねた固まりが黒鉛で、隣接するシート状の層同士はファンデルワールス力と呼ぶ弱い力で結合している。このため黒鉛はシート面と平行な方向に力を加えると、簡単に割ることができる。これを劈開(へきかい)と呼ぶ。

 劈開では一度に数層〜数百層ものシートの固まりが割れて断片となるのだが、ここで劈開を繰り返すと単原子層のシートだけを取り出せるようになる。この単原子層のシートが「グラフェン」である。炭素原子の六角形構造が膨大な数で連なる平面状のシートだ。

 ここでグラフェンの平面状のシートではなく、シートを折り曲げて両端をつなげた円筒状の構造を想像しよう。単原子層の炭素原子が六角形を構成し、六角形の膨大な連なりが曲面となって円筒を形作る。これが「カーボンナノチューブ」である。

 グラフェンとカーボンナノチューブの両方に共通する特徴は、現在のシリコンデバイスに比べて、電子移動度と電流密度がいずれもはるかに高いことだ。この他にもシリコンデバイスとの違いはあるものの、高移動度と高電流密度という特徴が研究の大きな推進力になっている。

 電子移動度はトランジスタのスイッチング時間を左右する。電子移動度が高いと電子がチャネルを走行する時間が短くなり、スイッチングが速くなる。グラフェンとカーボンナノチューブの電子移動度はシリコンの100倍以上もあり、これらの材料でチャネルを形成したトランジスタは原理的にはシリコンよりもはるかに高い速度で動く。これは、シリコンの限界を超える高速トランジスタを実現できるだけではなく、最先端のシリコンMOS FETよりも形状が長いチャネルでも、最先端シリコン並みの速度を達成可能なことを意味する。

 またシリコンデバイスの配線金属は現在は銅(Cu)が主体なのだが、グラフェンとカーボンナノチューブが許容できる電流密度は銅に比べて1000倍以上もあり、原理的には銅配線よりも非常に細い配線ではるかに大きな電流を流せる。

 このようにトランジスタと配線の両方を1つの材料で兼ねられ、なおかつ両方ともがシリコンデバイスを超える可能性を示しているというのが、カーボンデバイスの大きな特徴である。

280GHzで動くグラフェントランジスタ

 それではIEDM 2011で発表された研究成果をご紹介しよう。まずはグラフェンのFETに関する発表である。

 IBMは、高周波特性の極めて優れたFETをグラフェン材料で作成してみせた(Y. Q. Wu他、講演番号23.8)。グラフェンの製造方法には、グラファイトの劈開を繰り返す方法と、基板上でグラフェンを合成する方法などがあるが、半導体プロセスと整合するのは基板上での合成(合成グラフェン)である。IBMが試作したのは炭化シリコン(SiC)基板上に作成したグラフェンによるトランジスタであり、合成グラフェンのトランジスタとしては過去最高の動作周波数を達成した。試作したトランジスタのゲート長は40nmで、動作周波数(遮断周波数fT)は280GHzである。

 さらに、ドレイン電流(チャネル幅当たり)と相互コンダクタンス(チャネル幅当たり)でも合成グラフェンのFETとしては過去最高の性能を達成した。ドレイン電流は5mA/μmもあり、シリコンMOS FETと比べても非常に大きな電流である。相互コンダクタンスは2mS/μmで、こちらはシリコンに比べるとまだずっと小さい。

 グラフェンはSiC基板のSi表面を使ってエピタキシャル成長させた。このため良好な品質のグラフェンを成膜できている。

図2 図2 IBMが試作したグラフェンFETの構造 (クリックで拡大)
図3 図3 試作したグラフェンFETの性能(This work)と過去の最高記録(Previous record) (クリックで拡大)
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.