グラフェンを使ったトランジスタの製作はこれまで、非常に小さな基板を使ったものがほとんどだった。いわゆる実験室レベルでの試作である。これに対してIBMは、一般的な半導体の製造ラインである直径200mmウエハーの生産ラインを利用してグラフェンFETと受動素子によるICを試作してみせた(Shu-Jen Han他、講演番号2.2)。
ウエハーは高抵抗シリコンである。このウエハー上でグラフェンのFETとアルミニウム(Al)のコイルを集積して入力周波数信号を2倍にする逓倍回路を試作した。入力信号の周波数が1GHzのときに、2倍に相当する2GHzの出力信号を確認した。入力電力は0dBm、出力電力は−25dBmである。
カーボンナノチューブのデバイスでは、9nmと極めて短いカーボンナノチューブ(CNT)をチャネルに利用したトランジスタ(CNTトランジスタ)をIBMが試作した(Aaron D. Franklin他、講演番号23.7)。カーボンナノチューブの直径は1.3nmである。
試作したトランジスタのオン電流(チャネル幅当たり)は1.76mA/μA(電源電圧0.4V)と高い。発表によると、チャネル長10nmのシリコンナノワイヤーによるトランジスタの4倍のオン電流を達成できたという。電流電圧特性は飽和特性を示しており、トランジスタとしての基本的な動作を確認できた段階である。速度や周波数などの動特性の確認は、これからになる。
福田昭(ふくだ あきら)
テクノロジーライター。複数の技術情報誌で記者、副編集長、編集長を務めた後、フリーランスとして活動。電子(エレクトロニクス)技術分野をメインに、科学技術分野全体をカバーする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.