テレビ放送では、映像が幾つもの中継地点を経由することが多い。従来の手法では映像が中継されるごとに色が劣化していた。富士通が開発したアルゴリズムを利用すると、色の劣化が起きなくなり、テレビの画質を元からきれいにできる。
映像には、見る者に直接的に訴求する力がある。このため、テレビ受像機やディスプレイでは表示品質が重視される。例えば、映像の内容に応じて動的にLEDバックライトを制御し、コントラスト比を高めるLED液晶テレビ。映像の内容をリアルタイムに判別し、輪郭処理などによって精細度を高める超解像処理。いずれも今日のテレビ受像機には欠かせない技術に育ってきた。
「これらの技術にはもちろん意味があるが、もともと劣化している映像ソースを元通りにする力はない。映像の劣化は根元から断つ必要がある」(富士通研究所 メディア処理システム研究所イメージシステム研究部で部長を務める中川章氏)。
中川氏のいう映像劣化とはどういう意味なのか。テレビ放送に使う映像ソースのうち、スポーツ中継やニュースなどは、現場で撮影し、中継車や中継局を通り、編集を経て視聴者に届く(図1)。「従来の手法では、映像が中継車や中継局、編集を経るたびに色成分が劣化していた。視聴者がテレビ画面を見てはっきり分かるほどの劣化だ。当社が開発した技術を使うことで、この劣化を防ぐことができる」(中川氏)。
2012年4月5日に富士通研究所が開催した報道機関とアナリスト向けの展示説明会では、劣化した映像と新技術を採用した映像を比較して見せた(図2)
現場で撮影した映像が中継局などを経由するだけで、なぜ色成分が劣化するのだろうか。
富士通研究所によれば、テレビ放送では、高い品質の映像を10Mビット/秒程度の比較的低いレートで伝送することが要求されるのだという(図3)。そこで実際には、映像の色成分の情報を縮小することで伝送レートを抑えている。人間の視覚は明るさ成分に比べて、色成分の解像度の認識能力が低いという特性があるからだ。この色成分の縮小処理が、映像劣化の原因になる。「ニュース映像などでは複数の映像を切り替えて使う。つまりスイッチャーが必須だ。スイッチャーを使うには例えばMPEG映像のままでは難しく、いったんH.264/AVCに変換しなければならない。このときに色成分の情報が少しずつ落ちる」(中川氏)。
映像送信機内部では、入力映像を明るさ成分と色成分に分離する(図4)。明るさ成分には手を付けないが、色成分は縦方向に解像度を半減させる。H.264/AVCの4:2:2フォーマットから同4:2:0フォーマットへ変換している。その後、両方を合わせて伝送する。映像受信機側では色成分を拡大し、明るさ成分と合成し、出力映像を得る。中継所が1カ所だけであれば映像の劣化はほとんど認識できないレベルだが、実際には複数の中継所を経るために、色にじみが起こってしまう。
富士通の手法は、4:2:2フォーマットと4:2:0フォーマットの変換時に色にじみが起きないようにする数学的な条件を考えて作り上げたアルゴリズムだ。「当社の方式でも、1回目の変換ではわずかに色にじみが起こる。しかし、5回、10回と変換を繰り返しても色にじみが累積しないことに特長がある」(中川氏)。
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