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“小さな基地局”、携帯インフラで大きな存在へ無線通信技術 LTE(2/3 ページ)

» 2012年06月08日 09時30分 公開
[Rick Merritt,EE Times]

チップベンダーへの圧力が上昇中

 しかしこのシナリオは、半導体ベンダーにとって過大なストレスになりつつある。

 「携帯電話のキャリア各社は、通信エリアを確保するために多彩な手法をそれぞれに検討中だ。これにより、供給側には大きなストレスがかかっている」。こう明かすのは、Freescale Semiconductorの無線アクセス事業部でマーケティングマネジャーを務めるStephen Turnbull氏である。「キャリア各社は、コストと消費電力という課題に直面した際に、さまざまなプロトコルとフォームファクタを要件として基地局の供給側に投げ掛けており、その要件の数は非常に多い」(同氏)。

 そうしたキャリアに旧来からマクロセル向け基地局を供給してきたAlcatel-LucentやEricsson、Huawei、Nokia Siemens Networksといったメーカー各社は、フェムトセルで成長しているAirvanaやip.access、Ubiquisysといった新興勢力と2013年にもぶつかり合うことになるだろう。両陣営はそれぞれ、キャリアと組んでスモールセルをフィールド試験に持ち込むべく、活発な提案を進めるはずだ。

 これら2つの勢力は、ローエンド市場で最も激しく競合することになるとみられている。基地局向けプロセッサを手掛けるCavium Networksでインフラストラクチャ部門のジェネラルマネジャーを務めるY.J. Kim氏は、「エンタープライズの分野では、ルータ装置を手掛ける企業が参入してくるので、数多くの競合が生まれることになる」と指摘する。事業規模が比較的小さいメーカーの中には今後、既にフェムトセルを出荷している巨大な企業に買収される企業があるかもしれない。

 屋外用の基地局で64〜128ユーザーを収容できるタイプの市場も、動向を注視したい領域の1つだ。市場調査会社のABI Researchでモバイルネットワーク分野のディレクターを務めるAditya Kaul氏は、このタイプの基地局について、「現時点では全く設置が進んでいない。しかし、これからは非常に面白くなるだろう。なぜならキャリア各社は、この領域をまだよく把握していないからだ」と語った。「キャリア各社は、以前は屋上や土地を借り受け、アンテナ塔を建ててマクロセル用の基地局を設置していた」(同氏)。

 Kaul氏は、基地局の大手メーカーは主に屋外用のセルと屋内用のスモールセルに注力していくとみている。しかし同氏は、キャリア各社が両タイプのセルをまたいでネットワークの統合を進めるのに従って、「基地局市場では大手メーカーが全体を掌握するようになり、今後2〜3年にかけて比較的小さなメーカーを買収し始めるだろう」と予想する。

ASICからSoCへ

 このように基地局のトレンドがネットワークの統合を後押ししており、半導体チップを手掛ける企業にも大きな商機が訪れている。

 旧来のマクロセルは、ASICとDSP、FPGAを組み合わせて用いるのが一般的で、基地局メーカーごとに設計手法が異なっていた。これに対しスモールセルでは、マルチコアのヘテロジニアスな回路構成を採るSoC(System on Chip)が主流になりつつある。SoC化によって、コストとサイズ、消費電力をいずれも低減できるからだ。

 この設計手法の変化を捉え、基地局向けチップを供給するFreescale SemiconductorとLSI(LSI LogicがAgere Systemsと合併して社名を変更)、Texas Instrumentsは、28nm世代の先端的な半導体プロセス技術を適用した統合型SoCを2012年の早い時期に投入した。Cavium Networksもこの動きを追って、2012年5月にSoCを発表している。

 ABI ResearchのKaul氏は、こうしたチップベンダー各社の戦略について、「スモールセルからマクロセルまで、単一のチップアーキテクチャで全てカバーしようとしている」と分析する。

 これら先行企業に対し、Broadcomはまだ同分野に向けたSoCの設計段階にとどまっている。そのSoCには、自社の複数タイプのコアと、最近買収したNetLogic Microsystemsなどから取得したIPコアを混載するという。

 同社のIlyadis氏は、未発表の製品に関するコメントは拒否したものの、「DSPとハードウェアアクセラレータのIPコア、パケットプロセッサ、さらにバックホール機能をまとめて1個のデバイスに集約するというのは、ごく自然な流れだ」と述べた。「最終的に市場が成熟すれば、そうした基地局用SoCにWi-Fiも統合されるようになるかもしれない。しかし、今はまだそれには早すぎる」(同氏)。

 TIは、同社の最新アーキテクチャである「KeyStone II」を適用したチップに、最大32個のコアを集積する。4つのARM Cortex-A15プロセッサと、TIのDSPコア群「TMS320C66x」の他、パケットプロセッサやRapidIOスイッチ、アンテナ調整回路などを混載するチップだ。一方、通信インフラ市場においてTIの最大の競合であるFreescaleは、基地局向けプロセッサ「QorIQ Qonverge」を拡充し、デュアルスレッド対応のPowerコア「e6500」と128ビットのSIMDユニット「AltiVec」、DSPコア「StarCore SC3900」を集積する品種を投入した。

 LSIは、自社の最新チップ「AXM2500」に1GHz超のPowerPCコアを採用しており、新型の組み込みセキュリティ機能も搭載した。なお同社は、将来的にARMコアに切り替えるという計画を立てている。

図4 図4 Tom Flanagan氏 TIの無線インフラストラクチャ事業部門で技術戦略担当のディレクターを務めている。シリコンチップへの機能の統合が「アグレッシブ」に進んでいるとし、ボードの小型化と低コスト化を後押ししていると述べる。

 TIの無線インフラストラクチャ事業部門で技術戦略担当のディレクターを務めるTom Flanagan氏(図4)は、シリコンチップ上にさまざまな機能が集約されるという動きが急速に進んでいると指摘し、それにより「ボードを小さく低コストで実現できるようになり、消費電力も低くなる」と述べた。

 Caviumは、自社のSoC「Octeon Fusion」に、4個の64ビットMIPSコアとともに、サードパーティ企業から調達したDSPコアを最大6個まとめることで、競合に挑む。同社は、そのDSPコアを供給するサードパーティ企業の名前は明かしていないが、「上りリンクと下りリンクの両方において150Mビット/秒のデータレートを実現し、従来よりもたくさんのユーザーを収容できるようになる」(同社のKim氏)と主張する。

 Kim氏によれば、Caviumのネットワークプロセッサは、マクロセルを手掛ける基地局メーカーの上位10社のうち8社に採用されているという。ただしそうした既存チップは、次世代の設計では集積化を進めたチップに取り込まれて、使われなくなる可能性もあるとしている。

 その一方で同社は、スモールセルの新たな市場で足場を築き始めているという。同社によると、ある基地局メーカーがキャリアに対し、システムのサンプリングを始めている。同社の新型SoC群「Fusion SoC」は、2012年の秋に量産を開始する予定だ。

 PMC-Sierraもこの市場に取り組む半導体ベンダーの1社である。マクロセル向けとスモールセル向け製品群の他、バックホールシステムに使われているパケットプロセッサをとりそろえている。

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