基地局の大手メーカーの中には、モバイルのトラフィックが密集する地域に向けた新たな手法を探っている企業もある。具体的には、発呼を処理するためにスモールセルの設置数を増やす代わりに、マクロセルにビームフォーミング方式のアンテナアレイを導入することで、より多くの信号を捉えるという手法を検討中だ。
Nokia Siemens Networksは、そうしたアンテナアレイの活用を狙って、Motorolaから技術を取得した(図5)。Alcatel-LucentとEricssonも、このコンセプトの可能性を検証しているとされている。
ビームフォーミング技術そのものは、既に消費者向けの家庭用ルータ装置でも使われている。BroadcomのIlyadis氏の自宅にも、そうしたルータが1台あるという。そのルータは、空間中に同氏のモバイル端末の存在を認めると、その端末により大きな電力の無線信号が到達するようにアンテナの指向性を制御する機能を備える。同氏が移動して端末の位置が変化すると、それに合わせた調整も行う。
しかし同氏は、この方式について、「ユーザーの数が増えた場合は、それほど効率的ではない。数多くのユーザーが存在していても、その空間全体をカバーしなければならないからだ」と指摘した。
ABI ResearchのKaul氏も、こうしたスマートアンテナについて懐疑的な立場をとる。「スモールセル向けのスマートアンテナは、条件によってはメリットがあるだろう。しかしネットワークの規模が大きくなってWi-Fiを取り込むようになれば、スマートアンテナの制御は、システム側でうまく扱えないほど複雑になってしまうと懸念される」(同氏)。
スマートフォンのユーザーがアプリを切り替えるたびにトラフィックのパターンが変化するという状況も、スマートアンテナの制御を難しくする可能性がある。「デモンストレーションとしては素晴らしい技術だ。しかし実際に基地局に実装されたときにうまく機能するのか、私には分からない」とKaul氏は付け加えた。
TIのFlanagan氏は、アンテナアレイ方式の利点として、従来よりも小型で低コストのパワーアンプが使えることを挙げる。マクロセルで高所に配置される高密度の電子回路部を小型化できるかもしれない。同氏は、キャリア各社のうち何社かは、最終的には、スモールセルとアンテナアレイ採用のマクロセルを混在させるハイブリッド型のソリューションを採用する可能性があるとみる。
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