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「省電力」技術には信頼性が欠かせないパワー半導体 SiCデバイス(1/2 ページ)

省電力技術の重要性が一段と増している。国内の電力の6割を使うモーターの消費電力を引き下げたり、太陽光発電システムの出力量を高められる技術の注目度が高い。その鍵を握る技術の1つが「SiC」である。だが、SiCには弱点があった。信頼性が既存技術に比べて低い。どうすればよいのか。ロームの取り組みを紹介する。

» 2012年06月14日 18時00分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]
「省電力」技術には信頼性が欠かせない どこにでも顔を出す電力変換技術

 国内の電力事情が予断を許さない中、発電技術、蓄電技術に加えて、省電力技術に注目が集まっている。なかでも効果的なのが、電力の変換ロスを引き下げる技術だ。なぜなら、電力変換技術は省電力に役立つだけでなく、発電や蓄電をも改善するからだ。

 交流で送配電されてきた電力を、家電や電子機器で利用可能な直流に変換する、太陽電池が発電した直流を交流に変換して売電する、リチウムイオン二次電池が出力する直流を交流に変換して電気自動車のモーターを動かす……。いずれの場合も、電力変換技術が欠かせない。その改善によって、国内の消費電力の約6割を占めるモーターや、今後の大量導入が見込まれる太陽光発電システムの効率が向上すれば、大幅な省エネルギーにもつながる(図1)。

 電力変換技術の進歩は、電力変換の効率の向上や損失の低減で表される。こうした指標の改善に向けた取り組みの中で、注目を集めているのが「SiC(炭化ケイ素)」である。その理由は、電力変換に用いるパワー半導体として従来使われてきたSi(シリコン)に比べて、SiCの方が物質としての性質が望ましいからだ。Siパワー半導体をSiCパワー半導体に置き換えれば、電源や電力変換器の性能が大きく向上する。変換効率の向上はもちろん、電源の大幅な小型化も可能になり、機器全体の薄型化、軽量化にも役立つ。小型化は、例えば電気自動車などで強く求められている。

図1 SiCパワー半導体の用途 モーターを使う機器(図右上のEVや図右下のエアコン)の他、太陽光発電システムなどに必要不可欠なパワーコンディショナー(図左下)などに利用できる。将来は、変圧(図左上)にも適用範囲が広がるだろう。出典:ローム

 SiCパワー半導体の実用化は、電源回路に必要不可欠なダイオード(SBD:ショットキーバリアダイオード)から始まった。2010年には国内各社がSiC SBDの製品化を開始、2010年末には、SBDと組み合わせて使うスイッチング素子であるSiCパワーMOSFETの量産も始まった。2012年3月にはSiC SBDとSiC MOSFETを採用したフルSiCモジュールの量産へと至り、SiCパワー半導体の実用化は順調に進んでいるように見えた。

SiCの「欠点」が露呈

 SiCパワー半導体を手掛けるロームは、「当社の製品に限らず、SiC MOSFETのユーザーは通電劣化を経験しているようだ*1)。このため、採用数が順調に伸びていない」と明かす。通電劣化とは、MOSFETの通電時の抵抗であるオン抵抗が増加する現象などを指す。オン抵抗が大きくなると損失が増加し、より発熱するようになる。機器の寿命にも影響する。この他、順方向電圧の上昇なども表面化した。

*1) 通電劣化を起こすのはSiC MOSFETの構成要素のうち、「ボディーダイオード」である(2ページ目参照)。ロームによれば、同社が既に出荷を開始しているSiC MOSFETの第1世代品でもボディーダイオードの通電劣化を解消していたが、メカニズムが解明できておらず、今回発表した第2世代品でこれを解明したという。

 SiCはパワー半導体に適した性質を備えるが、Siと比べて扱いが難しい材料だといわれてきた。1つは、製造したウエハーの結晶欠陥密度がSiと比較して高いこと、もう1つはSiに比べて酸化膜の性能に劣ることだ。

 2つの課題は、いずれもMOSFETの性能や耐性に影響する。MOSFETはダイオードと比較して素子面積が大きく、結晶欠陥の影響を受けやすい。さらにMOS(金属酸化膜半導体)構造を採るFETであるため、ゲート酸化膜が必要不可欠であり、酸化膜の性能低下の影響を直接受けるからだ。では、どうすればよいのだろうか。

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