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塗るだけで発電する「ペンキ」の実現かエネルギー技術 エネルギーハーベスティング(1/3 ページ)

環境中から取り出せる微量のエネルギーを電力に変える環境発電技術。この環境発電技術が大きく前進しそうだ。NECと東北大学は液体材料を塗りつけて薄い膜を作り、微弱な温度差で発電することに成功した。大面積化に向き、曲面にも対応できる。開発品で利用したスピンゼーベック効果について併せて解説する。

» 2012年06月20日 16時30分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]
塗るだけで発電する「ペンキ」の実現か、熱から磁場を作る効果を使う スピン流を使う

 温度差を電流に変えるゼーベック効果*1)、電流で温度差を作り出すペルチェ効果は、小規模ではあるものの、現在さまざまな用途で使われている。ゼーベック効果は、熱機関の外側に素子を張り付けて発電するいわゆるエネルギーハーベスティング(環境発電)に役立ち、ペルチェ効果は可動部のない小型の冷却装置、例えばCPUのクーラーやワイン専用冷蔵庫などで使われている。

*1) ゼーベック(Thomas Johann Seebeck)は、ドイツの物理学者、化学者、医師。1821年にビスマス線と銅線で作った「回路」の一端を加熱すると、回路内に置いた方位磁石の向きが変わるという形で、ゼーベック効果を発見した。前年の1820年にデンマーク人の科学者エルステッドが、電流の磁化作用を発見したばかりだったため、電磁誘導という概念が確立されておらず、ゼーベックも当初は熱が起電力を生むという理解には至らなかった。

 ゼーベック効果とは、加熱によって、電子や正孔(キャリア)が発生し、半導体の異なる場所でキャリアの濃度が変化して起電力が起きる現象。発生する起電力は温度差に比例する。ゼーベック効果を利用するには、温度差のある部分に半導体材料を張り付ければよい。ゼーベック効果を使う製品が、熱電変換モジュールとして既に市販されており、数cm角程度のチップを入手できる。

 熱電変換モジュールの内部には熱電変換素子がずらりと並んでいる。熱電変換素子は、高温部の金属板1枚と低温部の金属板1枚、n型半導体とp型半導体からなる。低温部金属板と高温部金属板の間で、100個以上の熱電変換素子をn型−p型−n型−p型……と直列に接続することで熱電モジュールを構成する。

 このようにゼーベック効果を効率よく利用するには、1mm角程度の素子をすき間なくチップ内に並べなければならない。素子の数を増やせば、取り出せる電力は増えるが、微細加工が必要なことから、コストを引き下げにくい。

塗るだけで発電

 ゼーベック効果を用いた熱電変換モジュールの制約を解き放つ技術が開発された。NECと東北大学は2012年6月18日、塗布プロセスを用いて温度差から電流を取り出す手法を開発したと発表した(図1*2)。小型の素子を大量に並べる既存の手法と比べて、塗布プロセスでは製造がたやすい。さらに、「塗布面積を増やすだけで取り出す電力を増加させることができる他、パイプなどの曲面や凹凸面に沿った形状にも対応しやすくなる」(NEC)。今回は液体を基板上に垂らして均一な膜を形成するスピンコート法を用いたが、今後、研究が進めば、ペンキのように塗ったり、スプレーで塗布するといった方法で発電層を形成できる可能性があるという。

*2) 英国の科学雑誌「Nature Materials」に掲載予定。オンライン版にも掲載された。

図1 NECが試作した熱電変換素子 基板に熱電変換素子として働く物質を塗布したもの。塗布材料の上部に薄い金属層を作り込んである。試作した素子の寸法は5×2mmだが、素子の大面積化も可能だという。出典:NEC

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