東京大学生産技術研究所は、AIチップや電子機器の性能向上や省エネ化を可能にする「高効率放熱技術」を開発した。特殊な三次元マイクロ流路構造を用いて開発した水冷システムは、極めて高い冷却効率と安定性を実現した。
東京大学生産技術研究所の野村政宏教授らによる研究チームは2025年4月、AIチップや電子機器の性能向上や省エネ化を可能にする「高効率放熱技術」を開発したと発表した。特殊な三次元マイクロ流路構造を用いて開発した水冷システムは、極めて高い冷却効率と安定性を実現した。
半導体チップは高集積化と高性能化が進む。これに伴い、チップ自体の発熱を抑えたり、発生した熱をどのようにして効率よく逃がしたりするかが大きな課題となっている。こうした中で、放熱対策として注目されているのが「埋め込み冷却」と呼ばれる方法。チップ自体に水路を設け、ここに冷却液を流すことで効率よく熱を取り除くことができる。ただ、冷却する過程を効率よく制御するのがこれまで難しかったという。
研究チームは今回、「マニホールド構造」と呼ばれる分配構造と、「キャピラリー構造」と呼ばれる毛細管現象を利用した構造を組み合わせることで、これまでの課題を解決した。具体的には、マイクロ流路を設けたシリコン基板と、水路(マニホールド)を形成したシリコン基板を組み合わせた。マイクロ流路の側壁近くに設置したマイクロピラーと呼ぶ微細な柱がキャピラリー構造として機能する。これによって水の薄い膜が、発熱したシリコンに触れやすくなり、冷却を効率的に行うことができるという。
冷却の仕組みはこうだ。冷却水がマニホールドチップの入口から複数のマニホールド構造に流れ込む。その後、流れの向きを変えマイクロ流路に流れ込んで熱を吸収する。熱を吸収した水は、一部が蒸気となり気化熱を利用してチップを効率よく冷却する。水蒸気は主にマイクロ流路の中央部を伝わり、再びマニホールド構造に戻りマニホールドチップの出口から排出される。しかも、冷却水と熱を吸収した排水は、構造的に混ざることなく効率よく排熱できるという。
実験では、9個のマニホールド構造を備えたデバイスを試作しその特性を調べた。この結果、1cm2当たり700Wという高い熱処理能力(臨海熱流束)を達成。同時に従来のマニホールド構造がない設計に比べると、水流の抵抗(圧力降下)が62%も低減した。しかも側壁近くにマイクロピラーを設けたことで、452W/cm2以上の熱量だと、チャネル壁面の温度変動が大幅に減少することも分かった。これは、マイクロピラー構造により壁面に薄い水の膜が保持され、水蒸気が水路の中央部を流れるようになり、熱い壁面が常に水と接触した状態になるためだという。
研究チームは、開発した冷却技術と他グループによる水冷技術を比較した。これによると、開発した冷却システムは、冷却効率を示す「性能係数」が10万を超えた。
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