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塗るだけで発電する「ペンキ」の実現かエネルギー技術 エネルギーハーベスティング(3/3 ページ)

» 2012年06月20日 16時30分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]
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変換効率向上への近道発見

 今回スピンゼーベック効果を活用したのは、材料を改善し、塗布法を利用するためだけではない。従来のゼーベック効果を利用した熱電素子とは異なる効率の改善も可能になる。

 ゼーベック効果では熱電変換材料の効率が高いかどうかを「性能指数」で評価している。性能指数が高いほど熱からより多くの電力を生みだせる。性能指数の式は導電率を熱伝導度で割った形をしているため、導電率が高く、熱伝導度が低い材料をn型半導体やp型半導体として利用すればよい。しかし、一般に導電率が高い材料は熱伝導度が高い。例えば金属がそうだ。従って材料探索が難しい。

 「スピンゼーベック効果は新現象であるため、実は変換効率の定義は決まっていない。ただし、スピン流を経由しているとはいえ、温度差で電流が生じる点ではゼーベック効果と同じだ。ゼーベック効果の性能指数と比較すると、スピンゼーベック効果では、熱伝導率は金属側で決まり、導電率は磁性体側で決まる。つまり金属と磁性体という2つの材料の組み合わせを独立して決めることができ、効率改善を狙いやすいといえる」(内田氏)。1種類の材料の中を熱と電流が流れるゼーベック効果とは違って、効率改善の道が開けているということだ。

 なお、開発品では1Kの温度差から0.82μVの起電力を生み出している。この測定値は、基板の厚みを含めた値だ。膜自体の厚さは100nm以下なので、実はより少ない温度差で0.82μVという起電力を生み出していると考えられるという。

HDDやメモリの性能向上にもつながる

 NECと東北大学は、スピンゼーベック効果を使うことで、効率よく熱を電力に変換できる方向を示した。だが、内田氏によれば、スピンゼーベック効果の応用は、発電にとどまるものではないのだという。

 スピンゼーベック効果の出力は磁界だ。エレクトロニクスでは磁界の応用範囲は広い。例えば、HDDの磁気ヘッドやMRAM(磁気抵抗変化メモリ)などが挙がる。このような部品の性能を改善する場合、電流の経路が確保しにくかったり、元からある磁界がこれから作ろうとする磁界の邪魔をするなど、さまざまな課題があった。

 スピンゼーベック効果を使えば、電磁誘導よりも高効率でエネルギーを磁場に変えることができ、電流や磁場を使わない。そのため、HDDの磁気ヘッドのような部品の性能を改善できる可能性があるという。HDDや新型フラッシュメモリの容量拡大や高速化につながる技術だといえる。


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